AI・生成AIとの共創を取り上げた研究
最後に、「AI・生成AIとの共創」を対象とした、2つの研究を紹介します。
まず、近畿大学の廣田章光教授による『「ハイブリッド・インテリジェンス」促進にむけた「意外な関係」情報による「遠隔探索」効果―「AI(愛)のプリン」開発におけるAI生成情報と開発者との対話によるイノベーション―』の論文です。廣田先生は、子供が苦手な野菜情報を提供したカゴメと、AIを使ってその野菜に相性の良い食材を抽出したNECと、その組み合わせのアイデアをもとに試作した菓子道の社長(「なめらかプリン」の開発者)の連携によって開発された「AI(愛)プリン」の新製品開発プロセスに関わった人々を対象に、インタビュー調査をされています。
廣田先生は、AIによる予期しない組み合わせのアイデアが開発者への刺激物となり、開発の成果が向上すると主張されています。しかし、開発者が予期しない組み合わせのアイデアを理解できず、利用されないという課題も指摘されており、開発者の関連付ける能力が問われます。
もう一つが、プラグの小川亮代表取締役、同社の小口裕氏と千田彩花氏による『生成AIの創造性寄与に関する一考察―チューハイのパッケージデザインを例に―』の論文です。
小川社長たちは、実際にデザイナーが生成AIのデザイン案を参照した上で制作したパッケージデザインを対象に、2つの実験室実験を実施しています。一つ目の実験では、生成AIを活用して制作されたパッケージデザインと活用していないデザインをユーザーが評価した結果、生成AIがデザイナーの創造性を高めていることを明らかにしました。
2つ目の実験は仮説とは異なる結果でしたが、生成AIを参照したデザイナー自身に調査した結果、生成AIの活用がベテランデザイナーよりも若手デザイナーの創造性に影響を与えていることが提示されました。したがって、専門知識(経験)によるバイアス(先入観)がありそうです。
この研究も、生成AIによる予期しないデザインが刺激物となり、開発の成果が向上するという主張です。さらに研究の結果から見ると、廣田論文が指摘する関連付ける能力は、専門知識(経験)で培われるものではないといえそうです。
開発者との相互作用の重要性
このように、開発者の共創相手が機械、ユーザー、生成AIと変わっていますが、いずれの研究も、それらと開発者との相互作用の局面が新製品開発の成果に結びつくという示唆であったといえます。そのため、今回ご紹介した論文は単に理論的示唆を提示するだけに留まらず、実際に活用しようとする際の実践的示唆を多く含む内容となっているかと思います。
今後、さらにデジタル技術や環境がより変化していくものと想定され、新製品開発の変化に注目していくことが不可欠になるでしょう。実は、冒頭で紹介した図1の「デジタル社会の新製品開発の枠組み」は、著者が社会人向けの講座「次世代の製品・サービス戦略」で使用しているものが原型ですが、今年度の講義では大きく修正し今回掲載したものに差し替えました。想像がつくと思いますが、生成AIの部分です。2022年11月に登場したChatGPTによって生成AIは一躍有名になり、新製品開発での活用も一気に現実化し、外すことができない開発手法となったからです。
逆に、新製品開発の変化が新たな技術や環境の変化を引き起こし、相乗効果をもたらすということも忘れてはいけません。今回ご紹介した研究や枠組みが、新たな実践や研究につながることを期待しています。