消費動向から観光客のニーズ変化も捉える
──2023年7月に「世界水泳選手権2023福岡大会(以下、世界水泳)」が開催されました。開催にともない、福岡市では外国人観光客の消費動向を分析したそうですね。
野田(福岡市):新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行して、インバウンドの波が戻ることは予想できていました。しかしながら、コロナ禍の前と後で外国人観光客のニーズや消費動向は変わっている可能性があります。その変化を捉える必要性があると考えたのです。
野田(福岡市):世界水泳は、コロナの収束後に開催された大規模な国際大会です。外国からも多くの方が参加する点を踏まえ、外国人観光客の行動に生じた変化も可視化しようと考えました。
──分析にあたり、三井住友カードの「Custella Analytics」を活用したとうかがいました。過去にも「第9回ラグビーワールドカップ(以下、ラグビーワールドカップ)」開催時の消費状況を同社と分析したそうですが、今回も依頼した理由を教えてください。
野田(福岡市):キャッシュレスデータを基にした分析ができるからです。決済情報から消費傾向を把握することができます。アンケートを実施しても一定の消費傾向は把握できるかもしれませんが、アンケートは集計できる数に限りがありますよね。大きな規模で傾向を把握するためには、ビッグデータを使って分析する必要があるのです。
九州の他都市に対する波及効果も分析
──今回実施した分析の概要を紹介いただけますか?
野田(福岡市):世界水泳の開催期間中を対象に、観光客の決済額の増加傾向や利用している業種などの分析を行いました。2019年のラグビーワールドカップでも三井住友カードさんに分析を支援していただいたため、コロナ禍以前と比較すれば外国人観光客のニーズに生じた変化も可視化できると考えたのです。
平野(三井住友カード):様々な企業や自治体の方と案件をご一緒していますが、福岡市の皆様は分析の要件や意図をとりわけ明確にお持ちだと感じました。ラグビーワールドカップと世界水泳の開催期間で決済額の増減を単に比較するだけでなく、外国人観光客の嗜好性なども分析しました。
──他都市への影響も分析に含めた理由をお聞かせください。
野田(福岡市):ことインバウンド誘客においては、単独の自治体ではなく、様々な魅力を持った自治体が広域で連携することが効果的です。そのため、九州の各自治体などと連携しながらプロモーションを展開しています。今回の分析結果を可視化できれば、今後の広域プロモーションの参考になるだろうと考えました。
消費への影響は◎強豪国からの来訪が活性化
──分析の結果、どのような示唆が得られたのでしょうか?
宮崎(三井住友カード):まずは、世界水泳期間中の決済情報を分析した結果からご紹介します。ラグビーワールドカップの開催時より、日本人観光客・外国人観光客ともに決済額は伸びていることが明らかになりました。コロナ禍が収束し、観光客が戻り始めたタイミングで世界水泳が開催されたことが、観光消費の面にプラスの影響を与えたと考えられます。
宮崎(三井住友カード):世界水泳の開催前と開催中を比較しても、開催中は日本人観光客・外国人観光客ともに一人あたりの決済額が伸びていました。さらに、世界水泳に続いて2023年8月に開催された「世界マスターズ水泳選手権2023九州大会(以下、マスターズ)」の期間中もインバウンドの決済額は伸びていたのです。つまり、世界水泳の終了後も福岡市に滞在して消費する人が多かったと言えます。
さらに、国別の分析も実施しました。「世界水泳ともなると、特に強豪国と言われる国の方々なら会場まで応援に来るのではないか」という仮説を立て、メダル獲得数上位国の観光客の消費を2019年と比べてみたのです。
中国の方々は、コロナ禍以前の消費が非常に活発だったこともあり、2019年からの伸び率はそこまで高くありませんでした。一方、コロナ禍以前は来訪者がそれほど多くなかったオーストラリアやフランスの方々による消費が大会期間中に伸びており、世界水泳をきっかけに多くの方々が訪れ、消費していたことがわかります。
欧米からの観光客は別地方まで足を伸ばす傾向が
宮崎(三井住友カード):今回、観光分析を進める中で、福岡市を訪れる観光客の周遊傾向も見てみたところ、興味深い点がいくつか見つかりました。たとえばアジアの方々は「福岡県と大分県」などの組み合わせで九州エリアをコンパクトに回る傾向が強い一方で、欧米の方々は長い期間をかけて関西や関東などの主要都市を周遊する傾向が見られたのです。
さらに、消費データを業種別で見てみると、香港や台湾の方々はレンタカーの利用が多く、公共交通機関では行きづらい地域も周遊している傾向がわかりました。
平野(三井住友カード):福岡には韓国からの、鹿児島には香港からの、熊本には台湾からの観光客が多いこともわかっています。
宮崎(三井住友カード):訪れる人が多いエリアや過ごし方、消費のスタイルは国によって傾向が異なるものです。このような情報を基に、国別のプロモーションや他都市と連携したプロモーションを展開する方法もあると考えています。
野田(福岡市):国別の特徴は以前から観光庁の資料などで把握していたものの、実際の消費傾向が可視化されると説得力が違いますね。今後のプロモーションを企画する根拠として活用していきたいです。
西のゴールデンルートで広域プロモーションを強化
──福岡市では、今回の分析で得られた示唆を基に、今後どのようなことにチャレンジしたいとお考えですか?
野田(福岡市):ナイトコンテンツの充実にも一層力を入れていきたいと考えています。三井住友カードさんに福岡市のプラチナ以上のカード保有者のデータを分析していただいたところ、夜間の決済傾向が高いとわかったのです。屋台やライトアップなど、ナイトコンテンツに注力する現在の方向性の正しさを裏付ける非常に有益な情報だと思いました。
野田(福岡市):また、2023年にスタートした「西のゴールデンルート」の取り組みにも今回の示唆を活用していきたいと考えています。西のゴールデンルートとは、西日本・九州が一体となり、それぞれの地域の魅力を発信・プロモーションする取り組みです。キャッシュレスデータというエビデンスを基に、各自治体と連携しながら精度の高いプロモーションを展開していきたいと考えています。
──三井住友カードは、Custella Analyticsを通じて今後クライアントにどのような価値を提供していきたいですか?
平野(三井住友カード):クレジットカード番号は普遍的な共通IDです。国や地域に関係なく、基本的にどこでも使われるため、当社に集まるデータも多く、精度の高い分析を実行することができます。
消費だけに閉じない分析を
平野(三井住友カード):また、クレジットカードの利用シーンは買い物だけにとどまりません。福岡市では、全ての駅で当社の公共交通機関向けソリューション「stera transit」が導入されています。これは、Visaのタッチ決済による改札機の通過を可能にするソリューションです。
平野(三井住友カード):普段使っているクレジットカードがあれば、切符を買うために券売機や窓口に並ぶ必要がありません。海外では比較的普及しているサービスですから、日本で利用する外国人観光客も多いでしょう。他の自治体様でもこの仕組みは拡大しつつあります。Custella Analyticsでは、消費や移動など幅広いデータを基にした分析・提案が可能です。今後は「閉じない分析」に力を入れていきたいと考えています。
宮崎(三井住友カード):インバウンドに注力したい自治体様においては、コロナが落ち着き、外国人観光客が着実に戻り始めているこのタイミングで、消費の実態を捉える取り組みが不可欠だと思います。経年でデータを追って変化を捉え、次の打ち手につなげる福岡市様のお取り組みを、引き続き支援していきたいです。
宮崎(三井住友カード):また、今回の福岡市様とのお取り組みを通じ、広域で観光を盛り上げていくことの重要性を学びました。今後は広域の視点も取り入れながら、クライアント様に幅広い提案をしていきたいと考えています。