マーケティング組織の本質的な問題は戦術設計にあり
マーケティングの収益への貢献度が可視化できない――いまだ多くのマーケターが抱えるこの課題は、ほとんどの欧米企業のマーケティング組織においては既に過去のものとなっているという。
自身も米国でマーケターを務めた経験を持ち、現地の情報に精通するゼロワングロースの廣崎氏は「日本と欧米の違いはマーケティングオペレーション(以下、MOps)体制が整っているかどうかにある」と語る。
MOpsとは、一言で表わすと「マーケティングチーム内のツール、キャンペーン、データプロセス管理を通してマーケティングが収益にもたらす影響を最大化するチームもしくは役割」のことだ。
欧米ではMOpsの体制が整っている企業が多く、米国では「専任のMOpsがいる」と答えた企業は8割にも上るという。一方、日本では徐々にその重要性が理解されつつあるが、欧米にはまだ及ばない状況だ。2023年にパワー・インタラクティブ社が行った調査によると、日本で「社内にMOpsの業務を担う体制や組織がある」と回答した企業は9%だったという。
一方で、日本と欧米を比較して、マーケティング施策の内容や使っているツールに大差はないと廣崎氏は語る。では大きな違いは何か。
「戦術設計にかけるエネルギーや時間が大きく異なります」(廣崎氏)
多くの日本企業はマーケティング活動を行う際、最初に戦略を考えた後に一足飛びで実行へと進めているのではないだろうか。しかし、MOpsの体制が整っている欧米企業では、実行に移す前に予算や人員配置、チャネル計画などの戦術設計を緻密に、時間をかけて行っている。また、それらの意思決定に必要なデータもMOpsがしっかり活用しているのだという。
専門性を追求するマーケティング組織体制
MOpsの体制を整える際には、実務のプロフェッショナルであるフィールドマーケターと、管理のプロフェッショナルであるMOpsのチームの役割をしっかりと分けることが理想的だ。
欧米では10年程前からこのようなチーム体制で運用されていることが多いという。少人数でリソースが限られているスタートアップ企業などは別として、多くの場合、MOpsとフィールドマーケターは兼任することなく、それぞれの専門性を磨くことに専念している。結果的にマーケティング全体の質の向上も期待できるのだ。
「生産工場の生産ラインで例えるならば、フィールドマーケターが実際に仕入れてきた材料の加工や組み立てを行い後工程(セールス)に渡していく一方、MOpsはそれらを可能にする機械を選定したり、油を差したりネジを巻いたりメンテナンスすることで、全体プロセスがスムーズに進むよう管理しているといったイメージです」(廣崎氏)