キャッシュレス市場の拡大で消費者理解も進む
三井住友カードは「デジタル&イノベーションカンパニー」として、「あらゆる決済シーンにおいてお客様を支える」というビジョンを掲げている。そのビジョンの通り、同社は新たな会員向けサービス「Olive」や加盟店向けのオールインワンの決済端末を提供と、単なるカード事業に留まらない事業展開を行っている。
そういった事業を通して蓄積した豊富なキャッシュレスデータは、さらに新たな価値として提供されている。それがデータ分析支援サービス「Custella」だ。
金岡氏は、日本の消費支出においてキャッシュレス決済の割合が、4年間で1.5倍に増加していることを示し、「キャッシュレスデータを通じて、消費者理解の解像度が非常に高まっている」と指摘する。
キャッシュレスデータからは、「どんな人が、いつ、どこで、何を、どれくらい」消費したのかを把握できる。具体的には「時間単位」「丁目単位」まで、86業種ごとに詳細に捉えることが可能だ。今回のテーマであるインバウンド消費の観点でいえば、キャッシュレスデータに含まれる国籍を類推する情報によって、国籍ごとの消費動向を理解できる。
三井住友カードは、こうした顧客の属性や購買行動を分析し、マーケティング施策に活かすためのツールとして「Custella」を提供している。Custellaを活用したインバウンド向け施策の事例は、セッションの後半で語られた。
アフターコロナのインバウンド動向「消費地の変化」
続いて中里見氏が、インバウンド消費の現況と、着目すべき変化を解説した。
2022年10月に水際対策が緩和されて以降、インバウンド消費は回復傾向にあり、2023年の1~12月の決済額は2019年1~12月の水準にまで回復している。2023年12月単月では、2019年の同月と比較して金額ベースで4割ほど上回っており、大きく成長していることが伺える。
では、その消費の中身はどのように変化しているのか。中里見氏は着目すべき三つの変化を指摘した。
1つ目は「消費地の変化」。日本国内における決済額の全体を100として、地方別の消費額を数値化し、コロナ禍前後で比較したものが以下の表である。
「コロナ前と比べて、中部地方や東北地方、四国地方が大きく伸びています。都道府県別では、山形県、和歌山県、高知県など都市部より地方がかなり大きく伸びていることが見てとれます」(中里見氏)
一方で、近畿地方や中部地方、北海道などの都市部の消費は、いまだにコロナ禍前の水準に戻っていないことも明らかになった。このことから、インバウンドの消費先は都市部から地方へシフトしているといえる。
アフターコロナのインバウンド動向「国籍・業種別の変化」
二つ目は、「国籍の変化」だ。コロナ禍以前からの成長率が低い近畿地方や中部地方、北海道は、元々中国人観光客の消費額が5~7割を占めていた。しかし、現在の決済額の国別構成比を見ると、アメリカや香港、韓国、台湾などの割合が増え、中国への依存は軽減していることがわかる。
中国は2023年8月に日本への団体旅行が解禁されたが、「コロナ禍以前の19年と比べると、4割ぐらいの水準」と中里見氏。一方で韓国、アメリカといったその他の国の消費がコロナ禍以前の市場を大きく上回っている。
とはいえ、国別構成比のバランスは都道府県によってかなり異なる。たとえば、インバウンド消費の伸び率が特に高い山形県では、台湾・香港が大きな割合を占めている。また、全国では中国の決済額の割合は縮小しているにもかかわらず、高知県では大きく伸びている。これは中国からの豪華客船が高知県に停泊するようになったためだと考えられる。
最後の三つ目は「業種別の変化」。データを見ると、百貨店や免税店、家電量販店、ドラッグストアといった業種の消費額が減少していることがわかる。中里見氏は「『爆買い』でイメージされる業種の決済額が減少傾向にある」と指摘。一方で金額を伸ばしているのはホテル・旅館、飲食店、レジャーなど体験型の業種である。「全体的に、モノ消費からコト消費へシフトしているといえるのではないか」と中里見氏。
中里見氏は、インバウンド業界ではこの三つの変化(エリア・国籍・利用業種)を踏まえたうえで、施策を考えるべきだと提言した。
インバウンド分析でエリア・業態ごとの傾向や国籍の構成比を可視化
こうした現況を踏まえて、Custellaではどのようなインバウンド分析が可能で、どのようなマーケティング施策につなげられるのか。金岡氏が事例を解説した。
紹介されたのは、複数の飲食業態を運営する企業の事例。この企業は「どの国の人がどの業態の店で何を食べているのか」「どんな消費傾向の顧客が来店しているのか」を知りたい、また「コロナ禍を経て、インバウンドの顧客にどのような変化があったのか」を把握したいというニーズを抱えていた。こうした顧客動向を理解することで、店内の言語対応やオペレーション、出店地の検討や、メニュー開発に活かしたいという狙いだ。
こうしたニーズに対して、Custellaではエリアや業態ごとの消費動向分析を提供。たとえば「◯◯区でインバウンド消費が多い」という傾向を捉え、その中で利用者数・利用額の国籍別の構成比を分析できる。さらに、利用業態と国籍を掛け合わせた分析も可能だ。
POSデータとの連携で来訪者に特化した施策の検討も可能に
セッションでは、利用業態と国籍を掛け合わせた分析のイメージを伝えるため、ダミーデータを用いた図表が示された(下図)。ここからは「和食は中国、イギリスの方の消費が多く、カラオケ業態はシンガポールや香港の方に受けた」という消費傾向がわかる。
こうした分析結果を基にすれば、適切な出店地域や業態の判断、メニューの言語対応や、効果的なプロモーションにつなげられるのだ。
さらに、より詳しく「何を」購入しているのか把握したい場合は、企業が持つPOSデータと突き合わせることで分析可能になる。今回紹介された飲食店運営企業の事例でも、「人気の業態で具体的に何のメニューが多く注文されているのか」を明らかにするため、キャッシュレスデータとPOSデータを組み合わせて分析。そうすると、たとえば「中国の方にハイボールとから揚げが人気である」といった傾向が見えてくるのだ。こうした傾向を掴めば、来訪者様が多い国に対応したメニューを開発したり、その国の来訪者が増える時期に合わせて在庫を多めに確保したりといった打ち手に活かせる。
金岡氏はこのCustellaを使った分析について、「もちろん、インバウンドだけでなく国内の消費分析も可能」と補足する。「クレジットカードに紐づく属性データと普段の利用データを活用することで、より深い分析ができる」という。
たとえば、国内では「40代の女性で、目黒区在住、年収800万円以上の消費者が、イタリアンでよく消費をしている」という分析ができる。この時「目黒区在住」や「年収800万円以上」といった属性の部分が、インバウンド消費と比べて細かく分析できる要素となる。こうした属性によって、深く踏み込んだ分析が可能になるのが特徴だ。
「決済だけでなく、本業も」顧客理解からマーケティング課題の解決へ
金岡氏は「キャッシュレスデータで顧客の消費動向がわかる」と改めて強調する。自社データだけでは詳細な顧客理解まで至らないケースもあるが、キャッシュレスデータによって消費動向の把握が可能になる。そして、「消費動向がわかることによって企業のマーケティング課題をさらに解決できるのがCustellaの特徴。メニューの開発やオペレーションの強化、出退店の判断、販促などに活用いただけます」と説明した。
Custellaは「カスタマーを照らす」という意味を込めて提供しているサービスだ。「加盟店様から手数料をいただくだけでなく、本業を伸ばすお手伝いをしたいという思いでリリースした」と金岡氏は話す。
最後に「当社は“Have a good Cashless”というテーマを掲げ、キャッシュレスを通じて消費者様や企業様の発展をお手伝いするデジタルイノベーション企業を目指しています。この機会に様々なご支援をさせていただけたら」と語り、セッションを締めくくった。