製品作りに求められる「機能的な便益」と「情緒的な便益」の両立
高井:Z世代に向けたプロモーションを行う際にも、一つのCMをテレビで流すだけといったこれまでのやり方が通用しないことを意識しなければいけません。彼ら一人ひとりの気持ちに寄り添えるように複数のパターンでコンテンツを作る必要があります。実際に「instax mini Evo」の発売時には四つの動画を用意しました。

ターゲットの求める情報やその視聴シーンに合わせて4タイプの動画を作成。それぞれ、使用時の世界観を訴求するプロモーション動画(左上)、機能やデザインを詳しく把握したい層に向けた製品特徴動画(右上)、エンドユーザー視点に寄り添うアンボクシング動画(左下)、グローバルで同じ質の発表を行うための動画(右下)となっている
高井:こういったプロモーション戦
略の工夫による成果もあり、Z世代を含む若年層から多くの支持を得ることができ、2022年度には最高売り上げを達成しています。2023年度も前年度を上回る売上で着地する予測です。平山:Z世代を中心に支持を集めているチェキですが、あえて世代で捉えた時にアナログ的なものに回帰している要因、重要とする価値観をどう考えていますか。
高井:たとえば、手書きの手紙のやり取りは手間がかかるにも関わらず、メールやSNSのメッセージで届くよりも嬉しいと多くの若者たちはいいます。理由を聞くと「思いを馳せて書いてくれた気がする」といった回答が得られました。これは、まさに「情緒的な便益」の重要性を示唆していますよね。
私たちは、製品には「機能的な便益」と「情緒的な便益」という二つの便益があると考えています。「機能的」は「使っていて便利」ということです。一方、「情緒的」というのは商品を使用した時に「なんとなく良い気分になる」ことを表しています。
私たちが製品の
企画を行う際に心がけているのは、「機能」と「情緒」の両面を持たせることです。便利なものは一気に拡散しますが、愛着がわかないこともあります。その製品を「手放した くない」と思ってもらうには、機能だけではなく、情緒的な便益も必要になってきます。アナログ回帰の裏にある「脱・予定調和」「永劫的」「手触り感・いびつさ」への欲求
平山:私もZ世代のアナログ回帰を捉える上でのキーワードを考えてきましたが、高井さんのお話と共通する部分は非常に多いです。大きく分けて三つあると考えています。

平山:一つ目が、「脱・予定調和」です。
Z世代の人たちは無駄なことをしたくないという意識が非常に強い です。そのため「タイパ」や、「物語の結論を先に読む」などといった行動が多く見られてきました。そして、これは同時にすべて予定通りのいわゆる「予定調和の世界」になっていることを意味しています。最近では、この予定調和に不安を感じ、あえて脱しようとする動きも見られるようになっています。二つ目が「永劫的」です。SNSの普及により、流行が短期的なスパンで変化し続けています。この変化の速さに対しても少し疲れを感じてお
り、簡単には変化しない普遍的なものを求めている傾向があるように感じています。これに付随して三つ目として挙げられるのが「手触り感・いびつさ」です。デジタル上で写真をきれいに加工できることが当たり前な環境で育ってきた彼らにとっては
、実際に手に取れるといった感覚や、“きれい過ぎない”ものに対しての欲求が強いのではないかと考えられます。