「トランジション(移行)」の時代に、AIはいかに人間性を身にまとえるか
さて、冒頭のAIの話に戻るが、今年のSXSWでよく聞かれたキーワードの1つに、「トランジション(transition)」という言葉がある。直訳すると「移行、遷移」という意味で、これはAI以前の社会とAI以降の社会の移行期にあるということを示している。毎年恒例、SXSWでテック業界のトレンドレポート講演をするフューチャリストのエイミー・ウェブ氏は、今の時代・世代を「Gen T」と呼んでいた。
AIのようなソフトウェア技術に注目が集まる裏側で、ハードウェアも着実な進歩を遂げている。今年のInnovation AwardsのProduct Design部門を受賞した「Miroka Prototype: A Robot With Character」は、人とコミュニケーションを取ることができ、会話の内容によって表情を変化させることもできるヒューマノイドだ。開発者の1人はPepperのリードデザイナーとして知られるジェローム・モンソー氏。Pepperが登場した当時、すでに音声合成や感情のエンジンはかなりハイレベルなものだったと筆者は感じていたが、Pepperから約10年経ってハードウェアの進化が追いつき、それらをより人間が受け取りやすい形にアウトプットできるようになりつつある。
こうしてAIとハードウェアの融合が始まってはいるが、たとえば従順なヒューマノイドをつくって会話相手にしよう、というのも短絡的なソリューションのようにも思える。本当に人が求めているのはどういう会話なのか。ただ丁寧に正解を答えるだけのロボットは欲しくない。AIの技術面の進化はとても速いが、人に向き合うAIとしては、まだ深掘りが足りていないと感じる部分が多くある。だからこそ、今年のSXSWではAIの「人間性」の部分がひたすら話し合われていたのかもしれない。

AIやデータ、テクノロジーについては多くの議論が続くだろう。進化したテクノロジーが社会全体に与える影響について語られることは多いが、社会全体ではなく個人、1人ひとりがテクノロジーをどのように人生に活かせるのかについてはまだまだ議論が不足しているように感じる。テクノロジーと人間性の適切な接合点をデザインすることができれば、今を生きる1人ひとりに光を当てることができ、そこから想像もしなかったような価値を生み出すことができるのではないだろうか。