顧客を分析しても、プロダクトの価値がわからない時は?
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):ここまで、一人の心理を掘り下げるN1分析について、実際のプロダクト事例も交えて教えていただきました。一人の方に聞いていっても、結局何が支持されるのかヒントがつかめない……ということはありますか?
西口:確かに、「一人の顧客を分析してもプロダクトの便益と独自性を見極められない」という悩みを聞くことはあります。その場合のほとんどは、掘り下げ方が足りないことが原因かと思います。話していただく方は、自分の思いやニーズを言葉にできていないことも多く、Yes/Noの返答で話が終わってしまうような聞き方だと、その奥にある気持ちを語っていただくまでに至りません。
MZ:初心者だと、どうしてもその点が難しそうに感じます。
西口:そうですよね。もちろん、調査会社でインタビューを担当される方などは、聞く力という点で本当に高いスキルがあると思います。一方で、マーケターなら自社の扱うプロダクトをよく知っている上、人に興味がある方が多いのではないでしょうか。ですから、対話する力、聞く力は必ず養うことができると思います。練習として、家族や同僚に相手になってもらうことも有効です。
マーケティング入門連載の第9回では、「特定セグメントの20人ほどに聞けば仮説の確度がわかる」とお話ししました。むしろ対話を通して「言葉にできていないこと」を見つけるのも、N1分析の意義の一つです。ニーズが明らかなら、それを満たすプロダクトは既に市場にあるかもしれませんから。
自社プロダクトのカテゴリーにとらわれない
MZ:そうすると、そもそも相手が「これが欲しい」と意識していない何かをつかむ気持ちで臨むとよさそうですね。「潜在意識」や「インサイト」を探るイメージでしょうか?
西口:そうですね。対話を通して、具体的なプロダクトについて何人にも聞いていくと、次第に何をいいたいのかがわかるようになってきます。
そのためには、インタビューの最中は頭の中をフル回転させながら仮説を考え続ける必要があります。「ひょっとすると、この人はこういう理由で商品を買っているのでは」「いや、こういう理由かも」と、常に仮説を考えながら「それってこういうことですか?」「それはなぜですか?」と問いかけを続けていきます。それが「顧客の心理を洞察する」ことだと思います。
ここで大事なのは、一つのカテゴリーにとらわれずに、顧客にとっての便益を起点にして発想することです。
MZ:一つのカテゴリー、とはどういうことですか?
西口:たとえばビール類ならビール類、清涼飲料なら清涼飲料、といったくくりですね。WebのMarkeZineなら「ビジネス系Webメディア」になるかもしれません。
そのくくりで見るのも間違いではないですが、「仕事に役立つ情報を得る」ことが便益とすると、書籍やYouTube、SNS、友達のブログも読者にとっては並列だと考えられますよね。