N1分析を重ねることで、仮説の確度がわかる
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):マーケティング入門連載の第8回は、N1分析について伺いました。「一人の意見を頼りにして大丈夫なのか」と私自身もはじめは思っていたのですが、一人“だけ”に聞くわけではなく、1対1の対話を何度も行うことで「こういう案が受け入れられるのではないか」と仮説を確かめていくのですね。
西口:そうです。「一人だけに聞こう」といっているわけではないので、ニッチになるのでは、偏るのではと懸念する必要はありません。
入門連載の第4回、および第5回でWHOとWHATの間に成立するのが価値であるという話をしました。どんなWHOにどんなWHATが成り立つのか、その最初の気づきは量的なアンケート調査などによる平均的な意見からはなかなか得られないものです。最初のN1は、むしろ大胆に絞り込むことが大事です。
N1分析は一人の心理を掘り下げていきますが、その人が切実に解決したい課題やお金を払って手に入れたいと価値を感じるものが、本当に世の中でその人だけしか抱えていない場合は、ほぼありません。実在する一人が強く思うことを、同じように感じている潜在的な顧客が必ずいます。
もちろん、どれもが事業化するとは限りませんが、N1インタビューで見つかった仮説をもとにまた別の方へインタビューしていくことで見極められます。
MZ:では、何人くらいの方に聞くのですか?
西口:まず、ロイヤル顧客や潜在的な未顧客といった特定セグメントの20人ほどに聞けば、仮説の確度がわかると思います。その案を進めるにあたって上長の説得などに数字が必要な場合は、そこでアンケート調査を行い、定量的にどのくらいの人が支持するかを確認するといいでしょう。
N1からの新商品開発「デ・オウ」
MZ:一人の強い実感を起点に考えていく、というのは理解できた気がします。しかし具体的に、誰に聞けばいいのでしょうか? 顧客インタビューというと、既にプロダクトを買ったり使ったりした人に聞くようなイメージがありますが……。
西口:N1のリアルな意見から生まれた例として、第8回の中でロート製薬のスキンケアブランド「50の恵」を紹介しましたが、発端となった方はユーザーではなく社内のメンバーの家族でした。そもそも、その方の悩みをきっかけに新ブランドが誕生したので、ユーザーにはなり得ないですよね。
MZ:確かに、そうですね!
西口:第8回の最後に紹介した、創業者や開発者など、プロダクトの送り手側であるN1の「欲しい」という強い思いが起点になることもある、という話も同じです。世の中にないから作ったわけで、それは新商品開発です。顧客に聞くのが大事だというと、既存顧客がある程度いるようなプロダクトを想定されることも多いのですが、N1分析は新商品開発にも役立ちます。
これもロート製薬での話ですが、男性向けスキンケアブランド「デ・オウ」も、N1分析から生まれました。当時、同社では男性用ボディシャンプーを新規ローンチする計画があり、既存ブランドからグローバルで先行していたプロダクトが候補になっていました。ただ、寡占する日本市場だと「便益と独自性」が明確でなかったので、躊躇していたのです。