インタビューはあくまで手段、目的は顧客理解
MZ:そうやって聞いていくと、かなり具体的な案を見出せそうです。
西口:競合他社の顧客の心理を理解することで、どのような便益と独自性を提案すれば、自社製品を選んでもらえるかのヒントをつかめます。現時点では実現できなかったとしても、新商品を開発する際にカギになりそうな機能や特徴、つまりまだ満たされていない便益や独自性の可能性を考えるのに役立ちます。
仮に10人に聞けば、便益と独自性の引き出しを10通り以上考えることになりますから、価値を見出す力、すなわちマーケティングスキルも磨かれていきます。
MZ:ちなみに、インタビュー以外にN1分析を行う方法はあるのですか?
西口:もちろんあります。これまでN1インタビュー、1対1で対話する、といった言葉を使っているので「話を聞く」ことが主な活動に見えますよね。ただ、あくまでN1分析は顧客理解の一環であり、目的は「一人の心理を掘り下げて価値のヒントを見つける」ことです。その手段としてインタビューはとても有効、というわけです。
他に一人ひとりを理解するには、たとえば行動観察が挙げられます。対象者の同意の上でお買い物などに同行し、店頭でどんな行動を取っているのかを調査する「ショップ・アロング」という手法ですね。
「ペルソナ」という架空の顧客像は無効
MZ:第7回で、一人ひとりのインサイトを丁寧につかんでカスタマージャーニーを描くことが大事、と伺いましたが、こうした行動観察もカスタマージャーニーを描くのに有効ですね。
マーケティングのプロセスでは、顧客像として「ペルソナ」を作成して考えを深めていくことがあると思います。実在の一人の意見を聞いていくN1分析は、ペルソナを作って進めるのとは相反しますか? あるいは使い分けるポイントなどあるのでしょうか。
西口:ペルソナをどう定義するかによりますが、よく理解できた具体的な一人をそう呼ぶならいいですし、N1分析と相違はありません。
しかしペルソナという言葉が使われる多くの場合、それは何人かの顧客を都合よく統合した“理想の顧客”を指していたり、さらにはまったく架空の人物像だったりすると思います。そうしたペルソナの設定や活用には、私は否定的な立場です。ほとんど意味がないと思います。
第8回で吉永さんと、まったく異なるタイプという同期の方、2人とも満足する贈り物はあるのかという話をしましたよね。要するに、吉永さんと同期の方を足して2で割った人物像を追いかけて、誰かがすごく喜ぶことがあるのだろうか? ということです。これが、実在しない架空のペルソナを企業が設定する、大きな問題点です。
MZ:まさに「平均」を起点にしてしまうと、誰に対しても響かないアイデアに帰着してしまう事態に陥るわけですね。注意が必要です。
西口氏のマーケティング入門連載【第8回】はこちら!
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