「デモグラ×価値観」で発見した、ターゲットの新たなニーズ
乙幡:改めて、チョコパイが想定するターゲット層と喫食シーンについても教えてもらえますか?
吉見:発売当初から変わらず、メインターゲットはお子さんがいらっしゃる30~40代のお母さんです。リニューアルの実施にともない調査も行いましたが、ターゲット設定に間違いはないという結論に至りました。
ただ、時代の変化に合わせてターゲットとなるお客様の価値観も変化しています。実際、発売当初は多くのお母さんが専業主婦でしたが、現在は働いている方が非常に多くなっています。

吉見:この変化に注目して、私たちは、働くお母さんの時間の使い方や、子どもとの接し方について調査を実施し理解を深めました。すると、多忙で自分の時間を持てないお母さんたちは、自分への小さなご褒美を欲していることが判明しました。
そこで、チョコパイを子どもたちに与える手軽なおやつでありつつも、お母さん自身のご褒美としても活用できないかと考えました。
乙幡:多くの場合、ターゲットを単なるデモグラとして捉えてしまいがちです。しかし、吉見さんたちはそうではなく、時代背景やターゲットが置かれている状況、そこから生まれる価値観にまで目を向けてニーズを発見したんですね。
しかし、説明してくださった二つの異なるニーズはそれぞれ求める価値が異なると思います。この二つをどのように満たしたのですか?
吉見:ブランド全体としてはターゲットをどちらかに絞らず、それぞれのニーズに合わせた訴求や商品展開を行い、両方の顧客層からの購入を促しました。
たとえば、子ども向けのコミュニケーションとして、親子間のコミュニケーション活性化という観点から親子で楽しめる工作企画を実施。一方、働く女性へのご褒美としては、チョコパイプレミアムといった商品ラインを展開することで、子どもに与える用ではない「自分だけの特別なご褒美」を感じられる商品を展開しています。

強いブランドが持つ“明確なビジョン”
乙幡:時代の変化に合わせてブランドリニューアルをされていることがわかりました。一方で、ブランドリニューアルやリブランディングを行う際には変化させないブランドの核や支柱となる部分があると思います。チョコパイの場合は何が核なのでしょうか?
吉見:チョコパイの核になるのは、チョコレート、ケーキ、クリームの三つです。これらはいずれか一つでも欠けるとそれはもはやチョコパイではなくなってしまいます。
加えて、金色のロゴに白いパッケージもチョコパイの象徴として多くの方から認識されているため、このパッケージも現在まで変わることなく残り続けています。

乙幡:変えることのないビジョンやコアになるコンセプトは何かありますか?
吉見:チョコパイでは数年前に、「どんなときもそっと寄り添い まぁるい心でつながる」をブランドパーパスとして定めました。「まぁるい」というのは、発売当初から変わらないフォルムでもありますし、角のない、優しい気持ちへと導いてくれるという意味や、家族が一つになる、結びつくという意味合いもあります。そんなチョコパイが家のどこかに常にあることで、そっと寄り添ってくれるような安心感を与え、見守ってくれていると感じられるブランドでありたいと考えています。
こういった思いから現在私たちは、このブランドパーパスに基づいてマーケティングを行っています。
乙幡:これは非常に印象的な言葉ですね。強いブランドは、一貫して目指すべき明確なビジョンがあり、世の中を幸せにするために何をすべきかが定められています。チョコパイのブランドとしての強さの理由は、まさにここにあると感じました。