多様性の時代に必要なのはグラデーション
磯山:KAPOK KNOTのブランドコンセプト「Blur the line」には、どのような想いが込められているのでしょうか。

深井:「Blur the line」は、日本語で「境界線を曖昧にする」という意味です。
たとえば、アパレルの現場でいえば「生産者」と「消費者」、もっと広い世界で言えば「男」と「女」というジェンダーなど、今までパキッと分かれていたものの境界線が、昨今では曖昧になってきています。これを線からグラデーションにしていくのが大事だと思っているんです。
ビジネスの面では、大手企業で保守的なビジネスをしている人たちと、サステナブルなスタートアップで世界を変えようとしてる人たちの間も、境界線で分断されているように感じます。
そうした境界線を曖昧にしてグラデーションを作るためには、両者の間を取り持つ通訳者の存在が必要です。「あっちが言っているのはこういうことで」「こっちにはこういう事情があって」というように両者の橋渡しをした上で「それならこうすればよいのではないか」と選択肢を提示することで、新しい世界を作れると考えています。
その選択肢を作っていくのがKAPOK KNOTであり、通訳者になり得る人に着てほしいという思いもこめて「Blur the line」というコンセプトを掲げています。
磯山:「生産者だから」「販売者だから」「ユーザーだから」と工程や内容で分けるのではなく、グラデーションを付けながら仲間として一緒に課題解決に取り組むという感じでしょうか。
深井:世の中を変える人にもタイプがいろいろあって、旗振り役もいればアクティビストとして実際に活動する人もいます。その中にグラデーションを作る「グラデーションメーカー」という役割の人がいても良いと思っています。
KAPOK KNOTのコートを着るときは、ちょっとだけ「気合いを入れてグラデーションを作るぜ」という気持ちになってほしいというメッセージでもあります。
年齢や性別でセグメント分けしない理由
磯山:KAPOK KNOTはターゲットを年齢や性別でセグメント分けしないと伺って驚きました。これも境界線をなくすというコンセプトに沿った方針ですか?
深井:そうですね。たとえば、洋服の前ボタンの合わせは男女で異なりますが、そもそも調べてみると、男性は自分で服を着るが、女性は使用人が着せてくれるので逆だったという経緯があります。
でも現代でそれを踏襲する必要はないので、KAPOK KNOTでは右利きの人が自分で着る場合に着やすい合わせに統一しました。
こういう方針やこだわりを理解してくれるお客様かどうかというのは、年齢や性別とは関係ないと思うので、絞りきらずにやっているというのはありますね。
磯山:それこそがブランドの価値でもありますもんね。
深井:ただ、一緒に働くメンバーからすると、顧客の解像度が上がりにくいという側面もあります。境界線を曖昧にするのも良い面と悪い面があって、「全部OK」になってしまいがちなので難しいですね。
磯山:ペルソナも作らないんですか?
深井:最初は自分をペルソナにしていました。現在もブランドの中でクラウドファンディングを実施する商品とそうでない商品に分けていて、クラウドファンディングでやるものは自分が欲しいものを作っています。
磯山:年齢や性別でセグメント分けしないとなると、マーケティングでは他にどんな工夫をしているんですか?
深井:基本的にチャネルでアプローチを変えていて、メルマガ、Instagram、LINE、noteでそれぞれ違うキャラクターを想定して作り発信しています。
磯山:セグメントではなく、チャネルで接し方を変えているんですね。それぞれのチャネルごとに、ユーザーの傾向の違いはありますか?
深井:Instagramはやはり世界観に共感してもらうことが大切だと感じています。LINEはMakuakeユーザーが多く、メルマガはマスメディアで知ってくれた人が多いです。
購入してくれる人が多いのはメルマガです。ブランド公式のInstagramでは私の言葉を発信することはあまりありませんが、メルマガでは積極的に発信しています。