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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

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「サステナブルだけで顧客は買わない」「年齢や性別でセグメントしない」KAPOK JAPAN独自の戦略

身に付けるものの販売はリアルへ回帰する

磯山:オンラインでの成功を経て、オフライン店舗の展開にすぐチャレンジした理由は何かあるんですか?

深井:理由は2つあって、1つは私が意外と保守的だからです。毛織物メーカーの跡継ぎの血と言いますか、どちらかと言えばリアルに商品を触ってもらって、人と人とのコミュニケーションも含めて買ってもらうことが、ブランド作りにつながるではないかと感じています。

磯山:オンラインで販売しているときに、実際に触りたいという声もあったんじゃないですか?

深井:結構ありましたね。クラウドファンディング中に私がInstagramで「コートをいつもスーツケースに入れて持ち歩いているので、いつでも試着できます」と発信すると、「着てみたい」という声が集まりました。新型コロナウイルスが5類に移行して以降、リアルへの回帰を強く感じています。

磯山:5類に移行して以降、リアルへの揺り戻しは様々な業界で行っていますよね。オフライン展開を始めたもう1つの理由を教えてください。

深井:もう1つの理由は、アメリカのD2C業界と日本のD2C業界の流れをある程度予測していたからです。

 アメリカのD2C業界で「絶対に店舗は出さない」と言っていたアイウェアブランドが、オンライン広告費の爆増に伴ってオフラインに進出した事例がありました。そのため、D2Cが国内でどんなに盛り上がったとしても、オンラインだけで戦うのは難しいじゃないかと思っていたんです。

 また、自分自身そんなにネットで服を買わないんです。自分の価値観を含めて、オフラインの展開は必要だと考えていました。

磯山:オンラインとオフラインの融合、いわゆるOMOについてはどのような取り組みをしていますか?

深井:在庫データや顧客データはシステムで統合しています。初期のオフライン店舗は予約制だったので、予約が入るとその人の購買履歴に応じておすすめの準備などをすることができていました。

 ただ、流動的にいろいろな人が来店する状態になってからは、いつ誰が来店するかわからないので、オンラインで購入したものを店舗で取り置きができるくらいになってしまっています。もう一段階進化できる気がしているので、OMOにはもっと取り組んでいきたいですね。

磯山:店頭でのコミュニケーション以外に、ユーザーとのコミュニケーションとして取り組んでいることはありますか?

深井:定期的にユーザーが集まるイベントを開催し、KAPOK JAPANやKAPOK KNOTの取り組み、僕の思いを発信しています。

 また、2023年に俳優の二階堂ふみさんとのコラボアイテムを販売した際は、収益の一部をアニマルライツ(動物の権利)の関連団体に寄付する取り組みも行いました。その際に気を付けたのは、寄付先がユーザーに見えるようにすることです。

 関係者の顔がわかる寄付先団体を複数選定し、寄付先団体とユーザーを招いて、寄付金をお渡しするイベントを開催しました。その際に団体の方たちから寄付金の使い道を紹介してもらい、ユーザーが支払ったお金の行先がしっかり目に見えるようにしました。

磯山:深井さんがやりたかったことが、まさに詰まっていますね。

深井:そうですね。本当にやりたい領域がよくできたなという施策でした。

磯山:KAPOK KNOTの服を着るのは、自分が温かいだけではなくプラスアルファになるという物語を伝えることで、一緒になって応援してくれるファンになってもらう仕掛け作りなんだなと感じます。

深井:ゆるいつながりみたいなものは、ファンとのつながりにおいて大事なポイントなのかなと思います。

世界中にカポックや新素材を届けるのが目標

磯山:KAPOK KNOTの今後の事業展開は、どのようなことを予定していますか?

深井:素材系の事業部を立ち上げて、事業会社5社と連携して新しいマテリアルを作る事業に取り組む予定です。

 元々「世界中にサステナブルで機能的な素材を届ける」をミッションにしているので、カポックに限らず、グラデーションを作る選択肢をいろいろな素材で実現していきたいと考えています。

磯山:カポックに続く新しい素材ですか。期待したいですね。

深井:日本は素材の技術に強いんですよ。世界中から研究開発のオファーがくるので、それをもっと強化するためにも新事業部で本格的に取り組みたいと思います。

磯山:最後に、KAPOK KNOTが将来的に目指すブランドの姿を教えてください。

深井:ブランドとしては、これまでカポック素材を使っているというところに一番の価値が置かれてきたところから、もう一段階進化したいと考えています。

 「Why」「How」「What」で言うとカポックは「What」の部分です。それがこれだけ広がった要因ではありますが、先程お話しした「Blur the line = グラデーションを作る」というコンセプトも含めて、思想や「Why」「How」の部分も知ってもらい、同じ気持ちを共有してもらえるブランドになりたいですね。

編集後記

 今回は、成長中のサステナブルアパレルブランド「KAPOK KNOT」を展開するKAPOK JAPANの深井様にお話を伺いました。

 近年、環境配慮への関心の高まりとD2Cモデルの普及に伴い、多くのサステナブルブランドが誕生しています。しかし、価格面でなかなか手が出ないという消費者も多く、事業として成立させることは簡単ではありません。

 その中で、ブランドコンセプト「Blur the line」に込められた想い、自らが新しい選択肢となるためのこだわり抜いた製品作り、想いを伝えるためのユーザーイベント、ジェンダーや年齢でセグメンテーションしないオンラインコミュニケーションなど、様々な画期的な施策を深井様から聞くことができました。

 深井様のお話は、今後サステナブルや社会課題解決を起点としたブランド作りを考える上で多くのヒントがあったと思いますし、KAPOK KNOTが熱い支持を集める理由を垣間見ることができました。

 新しいマテリアル事業も開始されるということで、今後の展開も楽しみです。

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この記事の著者

磯山 博文(イソヤマ ヒロブミ)

株式会社wevnal 代表取締役

 2008年大手インターネット企業に新卒で入社し、メディアレップ事業、新規事業開発に携わる。2011年4月に株式会社 wevnal を創業し、LTV最大化を実現するBXプラットフォーム「BOTCHAN」を展開。累計導入社数は600社を超える。

 12期目を迎えた20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/05/29 08:30 https://markezine.jp/article/detail/45510

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