よなよな独自の「味」を生み出す開発プロセスとは?
高橋:先ほど、「よなよなエール」の成功を皮切りに独自色を出せるようになったというお話がありました。「正気のサタン」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」などの製品ラインナップがありますが、どれもユニークなネーミングと斬新なパッケージデザインが印象的です。
ヤッホーブルーイングでは、どのように製品を設計していくのですか。
井手:どんな製品にせよ、「味」は絶対的な前提条件です。といっても、味が良いだけでは勝負に勝てないのが競争の激しい日本のマーケットの難しさです。ですから、パッケージデザインやネーミングで、味に合った世界観を醸し出していくことも大切なんです。

当社では、まず製品の味をもとにペルソナを設定し、選ばれるまでのストーリーを明確に描いてから製品コンセプトに落とし込んでいきます。次に、製品開発のプロジェクトメンバーでブレストをして1,000個くらいのネーミングを考え、いくつかに絞り込みターゲットにアンケートを実施。そこからさらに絞り込んだネーミングでそれぞれデザイン案を複数描き起こし、再びアンケートをもとにブラッシュアップしていく。そんな作業を毎回やっています。
味を軸にすることで、デザインに惹かれて購入して、次は味が気に入って購入してくれるという好循環が生まれるんです。
100人に1人、強烈に刺さる人がいればいい
高橋:おっしゃる通り、リピーターを作るには、初回と2回目以降の購買動機の違いに注目する必要がありますね。当社のBtoB商材でも、初回は価格や営業の姿勢、契約更新はレスの速さや自社に合った提案の精度というように、微妙に異なります。
とはいえ、クラフトビール全体のシェアは大手に比べるとごくわずかで、店舗の棚面積も取り合いだと思います。それでも御社の製品が大手メーカーに負けずに選ばれ続ける理由は、どこにあるんでしょう。
井手:我々は「トレードオフ」という言葉をよく使います。これは、何かを得るためには何かを手放さなければならないという、二律背反の関係の考え方ですね。ビール市場で総取りを狙うなら個性を削って万人受けを目指すしかないし、個性を重視するなら万人受けはあきらめるしかない。
よなよなエールは「100人に1人、強烈に刺さる人がいればいい」と思って作った製品ですから、私たちは「100人のうち99人に愛されるビール」とのトレードオフで1%のシェアを取りにいったんです。
結果、その1人が買い続けてくれるうちに、他にない尖った特徴によって自然と差別化されて、1人が10人、20人に増えてきたのが今の状態です。近年、多様化の波がビールにも押し寄せてきて、画一化されたビールの味に満足しない人が増えたことも追い風になりましたね。
だから今、製品を購入してくれている大方の皆さんはそこまで当社と当社のビールにロイヤリティが高いわけではないはずです。その中にあって、純粋に好きの度合いが高いファンの皆さんがたくさん買ってくれているおかげで、しっかりシェアを獲得できているのだと認識しています。
高橋:トレードオフによって、一部の顧客が絶対に選ぶ理由を作ったわけですね。
※後編では、思い思われるファンとの関係作りと、新規ユーザーを呼び込むプロモーション施策についてお話を伺います。
ここにマーケあり!
・独自色を持つヤッホーブルーイングの原点であり、ファンを生むきっかけは、メルマガの常識を変える“顔の見えるコミュニケーション”でした。
・「味」が前提条件である厳しい日本のマーケットに生き残るには、「トレードオフ」という99%を捨てて1%を絶対に取るための製品設計がありました。