企業家の活躍を活性化するための、重層的課題
日本の産業や社会では、企業家への期待が高まっています。人口減少が進む国が活力を保つには、企業をはじめとする各種の組織、さらには個人が新たな事業を創出することで産業や社会の発展を導いていく必要があります。日本の多くの企業は、既存の市場で獲得していた顧客の維持に努めるだけでは事業の将来展望を描くことが難しくなっており、新たな市場を作り出すことの重要性が増しています。
本特集は、企業家マーケティングというテーマのもとに、行動開発・組織開発・エコシステム開発の3つの分野にわたる4つの論文を収録しています。企業家マーケティングをめぐる課題は多岐にわたり、理論化が進んでいない領域も少なくありません。
企業家はマーケティングに関わる各種の問題にいかに向き合い、どのように行動を進めるべきでしょうか。そしてこれらの行動を支えるには、どのように組織の仕組みを整えるべきでしょうか。さらに各所でこのような組織の動きを活性化するには、どのようなエコシステムを、いかに育んでいけばよいのでしょうか。

行動開発、組織開発、エコシステム開発
企業家マーケティングという課題に出会うと、人々の関心は個人としての企業家の意欲や能力をいかに高めるか、という問題に向かいがちです。こうした関心の持ち方が間違っているわけではありません。しかし、何が企業家にとって必要かの理解を、狭い課題の範囲に閉じ込めてしまわないようにしたいものです。企業家マーケティング研究の対象となるのは、図1に示すような重層的な社会問題です。
企業家に必要なのは、そもそもいかなる行動の意欲であり、能力なのでしょうか。さらにいえば、企業家に必要な意欲や能力は、個人の心理や行動にとどまらない問題です。こうした個人の意欲や能力を引き出し、発揮しやすくする環境としての組織との関わり合い方についても私たちは理解を深め、広げていかなければなりません。
加えてさらに視界を広げれば、企業家マーケティングは、エコシステムというより大きな環境のなかでの営みでもあるわけです。そこでの制度のあり方などの探索もまた、企業家マーケティング研究の課題です。
この企業家マーケティング研究の課題の重層性は、日本の企業、産業、そして社会が取り組まなくてはならない課題が多重な層からなるシステムであることを示しています。日本が企業家精神に満ちた活力ある国であり続けるためには、問題を一つのレイヤーに限定してしまわず、重層的かつシステマティックに問題に挑もうとする姿勢が、個人にも組織にも、そして社会にも必要なのではないでしょうか。
4つの特集論文
『起業家的シンボリック・マネジメント― ベンチャーの事業成長を起動する「シンボル」の影響力 ―(PDF)』
『大企業の新規事業開発におけるエフェクチュエーションの活用― 持続的なBMIプロセスを可能とするイントラプレナーの意思決定と行動 ―(PDF)』
『スウェーデンの起業家大学から生まれるハイテク・スタートアップ(PDF)』
『産業振興・ベンチャー支援から「起業の民主化」へ― 福岡における起業コミュニティの形成 ―(PDF)』