デジタルコマースのトータルソリューションを提供するFlywheel
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、自己紹介をお願いします。
池城:ブレインスリープは、睡眠医学に基づいた確かな知見と先進のテクノロジーを掛け合わせ、脳と睡眠を科学するソリューションカンパニーです。専門家と連携した睡眠研究、オリジナルプロダクト開発、企業やクリニックへのコンサルティングなど、睡眠に特化したあらゆるソリューションで人や社会の可能性を目覚めさせることを目指します。
池城:私は執行役員として、デジタル広告などの集客施策から自社ECサイトのUI/UX改善やCX施策、Amazonをはじめ他プラットフォームのマーケティングなど、デジタルマーケティング全般を担当しています。お客様にブレインスリープの継続的なファンになっていただくため、様々な施策を日々実行しています。
的場:Flywheelは、Amazonを中心としたデジタルコマースの戦略支援を行うグローバル企業です。「セールスの最大化とパフォーマンス最適化」をミッションに掲げ、クラウドベースのデジタルコマースソリューションを中心にデジタル戦略の立案から広告運用、レポート作成、数値分析に至るまでサポートしています。
私は15年以上デジタルに関するプランニングやストラテジーに携わり、現在はFlywheel Digital Japan株式会社の日本代表をやっています。
リアルとオンラインの垣根を越えた販売戦略が必要
MZ:デジタル化が進むことで、リテール業界を取り巻く環境は大きく変化しています。池城さんはメーカーの立場として、現在の状況をどのように見ていますか。
池城:コロナ禍の影響がやはり大きかったです。私たちの扱う製品は寝具が中心なので、以前は店舗で実際に体感してから購入するお客様がほとんどでした。ところがコロナ禍で来店が物理的に不可能になり、Webでの購入が爆発的に伸びたと思います。コロナ禍で、オンライン購入のハードルが一気に低くなったのではないかと感じます。
現在は店舗にもお客様が戻りつつあります。そのため、今後はリアルとオンラインでの販売を切り分けるのではなく、統合的に捉えた販売戦略を立てていく必要があると考えています。
当社では、リアルを担当する営業の部署だけでなく、全部署が協力してマーケティング施策を実行しています。店舗のポップアップの際は、デジタルマーケティングの部署も応援に出かけることがあります。デジタル戦略だけを考えているとお客様のリアルな声や温度感が見えない課題に直面しますから、リアルの場で生の声を実際に聞くことで、デジタルコンテンツの導線作りやわかりやすさに関わるUI/UX、伝える情報の絞り込みなどに活かせると思います。
リテールのマーケティング、最大の課題は
MZ:コンサルティングを行う的場さんから見て、リテールマーケティングの課題をお聞かせください。
的場:代理店サイドもクライアントサイドも、企業内で対応する部署がサイロ化されていることが大きな課題だと考えています。
ECと一口にいっても、自社サイト、Amazon、楽天など数多く存在します。メディアだと検索型広告、SNS、Amazonなどがあります。そうした中で「検索型広告の運用」「SNSの運用」「Amazonの運用」や「Amazonだけ対応する部署」「楽天だけ担当する部署」など、組織が大きくなればなるほど細分化されている現状があります。
MZ:具体的にはどういったことがネックになっていますか。
的場:実際に消費者が購入する場面を想像してみてください。最初にGoogleで商品を検索した際にGoogle Shopping Adsで商品を見て認知し、離脱してAmazonで再検索して購入する。あるいは、その逆のパターンもあります。リアル店舗に行った際に値段を比べるため、その場でAmazonの商品を検索することもあるでしょう。
データで紐づけることのできない、単一プラットフォームで購買が完結しないカスタマージャーニーがあると認識しているにもかかわらず、個々のメディアやリテールチャネルのデータだけを分析している状況では、消費者が実際に購買に至った背景やストーリーまで読み解くことは難しいといえます。
だからこそリテールにおけるデジタル施策を個別に分断するのではなく、統合プランニングが重要になっています。さらに池城さんがおっしゃるように、リアルとオンラインの販売も連携していくことが必要です。データ分析は大切ですが、それだけでは足りません。今後のマーケティング施策では、データで裏付けできない、読み解けない消費者の購買ストーリーまで想像し補完することも一層重要になってくると思います。
複数ECサイトのデータを統合分析
池城:データ分析は重要ですが、マーケターの想像力もデジタル戦略において大事な要素の一つだと思っています。お客様の購買行動を“自分ごと化”し、自分だったらどうかを考える。たとえば、店頭で製品を見に行ったが購入せず、Amazonレビューを確認し、結局キャンペーンを行っていたブランド独自のECサイトで購入するケースは、皆さんもあるかと思います。
MZ:プラットフォームを横断して様々なデータを集約するだけではなく、データ分析の持つ役割がさらに重要になりそうですね。
的場:その通りです。そのため当社ではプラットフォームやツールの提供だけでなく、データの観点からのサポートも重要視しています。
データを提供するだけでは、その見方や消費者の行動の「行間部分」まで読み取ることはできません。当社ではBIアナリストを積極的に採用し、プラットフォームやツールの提供だけではなくデータを読み解き、打ち手を示すところまで一貫したサービスを提供しています。
MZ:各ECサイトのデータを統合的に分析・判断する環境を実現させるには、ハードルが高いと感じるマーケターも多いのではないでしょうか?
的場:確かに組織規模が大きくなったり、逆にリソースが限られていたりする場合、各ECのデータを統合・分析するのは難しいかもしれません。
当社ではデジタルシェルフトラッキングツールの提供を新たに開始します(2024年6月24日にサービス開始)。売り場や特定ワードでSOV(Share of Voice)が取れているか、また価格変動や在庫切れなどを確認できます。
的場:また、2024年中にはマーケットシェアトラッキングツールもリリース予定です。このツールを用いることで、Amazon、楽天、Yahoo!、Qoo10、@Cosme、ZOZOなど多くのリテールで自社のSKU(Stock Keeping Unit:商品の最小の管理単位)のみならず、競合のSKUの想定売り上げや販売ユニット数などのデータを取得でき、1P/3Pと掛け合わせて確認することや、売れているSKUとそうでないSKUの商品タイトルの違いなども可視化。統合的に分析することが可能となります。
競合他社の状況を把握することで、トレンドや他社と自社との施策の違いなどを把握でき、より消費者目線に即した戦略を打ち出せるようになります。
池城:ECサイトを横断してデータ分析ができるのは、メーカーとして素直にうれしいですね。こうしたツールがあると、大きな組織で部署や担当をわける必要がある場合もAmazonや楽天など個別最適な施策ではなく、全体を見通した統合的で効率的な施策実現につながりそうです。
メディアとしての役割も大きいAmazon
MZ:Flywheelでは、Amazon販売を行う企業の支援を長年行っています。どのようなソリューションを提供していますか?
的場:当社のプラットフォーム「Flywheel Commerce Cloud」の特長は、Amazonのセールスデータや広告データ・Amazon Marketing Cloud(AMC)・Amazon DSPのデータが統合されている点です。それらのデータを掛け合わせてダッシュボードで確認できる仕様のため、クロス分析なども簡単にできます。我々はコンサルティングにテックベンダーを兼ねたような企業であり、プラットフォーム(AMCのテンプレートレポート含む)もサービスの一部としてクライアント企業に基本無料で提供しています。
MZ:池城さんは、今後Amazonをブレインスリープでどのように活用していこうとお考えでしょうか。
池城:私たちは、Amazonが今後商品を購入いただく場の意味合いだけではなく、一つのプラットフォームとして活用したマーケティングを実施したいと考えています。
Amazonの価値はECモールとして「商品が売れる」ということだけでなく、「出品する」ことがそのまま企業の認知につながるというメリットもあると考えています。これだけモノと人が集まるプラットフォームですので、Amazonプライムの広告活用などメディアとしての役割も持ち、交通広告やテレビCMのような認知の効果も得られるのではないでしょうか。Amazonで商品やレビューを見てから当社のECサイトで購入してくださるお客様も多く、口コミ対策やSEOの役割も果たしています。
データを価値ある形で活用・実行
MZ:今後のリテール業界の展望をお聞かせください。
池城:リテールマーケティングを独立したものでなく、マーケティング施策の中の一つとして広い視野で捉えることが重要だと思っています。たとえばAmazonの販売施策のみを考えるのではなく、ブランド全体でどういった方向性を目指すのかをまず定める。その上で、それを達成するためにはAmazonでどのような販売戦略を行うべきか、と落とし込んでいく形がよいと思います。
これは、Flywheelさんのようなエージェンシーと連携する際も重要なことで、ただAmazonの販売施策だけを支援してもらうのではなく、きちんと自社ブランド全体の考えを正しく共有することが必要です。
的場:リテール業界は、今後ますますテクノロジーが進み複雑化していきます。そのため、デジタル戦略においてはデータ分析だけでは意味がなく、そのデータを価値ある形で活用し、実行するところまで一気通貫で行うことが重要です。
我々は販売チャネルと連携するエージェンシーとしては、リテールだけではなく統合的なデジタルプランニングやブランド戦略を深く理解しておく必要があるでしょう。それによって、お客様に対して網羅的にサービスを提供できると考えています。
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