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「北欧、暮らしの道具店」成長の背景にある、ブランド育成に対する考え方とKPIの捉え方とは?

ブランドを育てる上での組織カルチャーとKPIの考え方

 ブランドの育て方の2点目として紹介されたのが「変化を抱擁するための組織カルチャー」だ。高山氏は、ソフトウェア開発で使われる「外部品質」と「内部品質」という言葉を用いて組織カルチャーの重要性を説く。

外部品質:外から見える形での品質。     

例:ブランドコミュニケーション

内部品質:外からは見えない品質。     

例:組織のカルチャー

 内部品質がなければ、いびつなコミュニケーションがチーム内で発生し続け、生産性に影響をおよぼすと高山氏は指摘する。

 たとえば、ブランドのリブランディングを行うことで外部品質が向上しても、内部品質に問題があれば、サステナブルな事業の展開や成長にはつながらない。外部品質のアップデートを行うならば、内部品質、つまり組織カルチャーもアップデートする必要がある。

 では内部品質を高く保つためにどうすればいいだろうか?この観点でクラシコムが特徴的なのがKPIの考え方だ。

 SNSやアプリなどのフォロワー数・アカウント数、年間購入者数、累計会員数などを日々のモニタリングで適切に把握しつつも、これらの数値を指標として設定しているわけではない。あくまで現状を正しく認識するためのものと捉え、観察、分析を行った上で解釈し、考察するというサイクルを回し続けるために活用する。

 セミナー参加者から「広告KPIの考え方」について質問がなされ、高山氏は次のように回答した。

 「直接商品ページに遷移する広告を出して売上につなげていくよりも、アプリのダウンロード広告に集中的に投資しています。ダウンロードは、売上が上がるまではワンクッション、ツークッションありますが、私たちはエンゲージメントやファン化を大切にしているので、広告においてもまずは『つながる』ことを重要なKPIと考えています」(高山氏)

 どうしても広告経由での購入者は初回購入にとどまりがちで、F2やF3への転換率が低くなる。「北欧、暮らしの道具店」の場合は、まずコンテンツを通した関係性を作る。そのため、購入後も顧客はコンテンツを通したコミュニケーションに戻ってくる。関係が途切れず、LTV向上につながることは容易に想像可能だ。

健全なブランド成長を促すために、個人の定量評価は行わない

 クラシコムは個人の評価基準となる定量的なKPIも設けていない。個人評価のKPIは、自社組織のあり方と相性が悪いと高山氏は言う。

 「変化していくために、『試す』ことを組織として推奨しています。それが数値で測ることとは合わないのです。たとえば『Instagramのフォロワー数や投稿数』を個人KPIにしていると、その達成が目的になり新しい試みへの挑戦が難しくなります」(高山氏)

 新しい取り組みを実施する際も、期待できるリアクション(売上やフォロワーなどの数値)や達成したいリアクションを考えるのではなく、起こり得るリスクを考え、その許容度から判断する。「やめることを試す」場合もある。たとえばSNSの投稿数を減らしてもモニタリングしている数値に影響がないなら、やめたほうが新たなリソースが生まれる。

 「ブランドを育てていく上で、『葛藤し続けることが健全な態度である』という共通認識を私たちは持っています。何が正解かはわからないが、『何が重要か』は葛藤の中で見えてくる。その考えがベースです」(高山氏)

 葛藤し続けることを大切にする場合、個々人が数値目標に追われると、部分最適な判断で正解を求める傾向が出てしまうリスクがある。それはブランド全体としてはいびつな判断となるため、あえて個人の評価基準に対して定量的なKPIを設けない。

 そのため個人評価の際には、過去の実績や貢献の定量的評価ではなく、「直近の未来に対して期待できること」を定性的にすり合わせることとしているという。

 「ミッション、ビジョン、バリューをどのように体現し、どのように活躍し、いかにチームに好影響を与えてくれそうか。パフォーマンスとマネジメントコストのバランスを踏まえ、その期待値を各人のロール(グレード)にフィットする形で設定します。評価というより『キャリブレーション(調整)』として向き合うことが、ブランドを健全に育てることにつながると思っています」(高山氏)

 最後にまとめとして、高山氏は改めて、ブランドを育てる面白さについて述べ、セミナーを締めくくった。

 「ブランドは人の頭の中にあるイメージや記憶という、とても曖昧なものです。良くも悪くも今と過去のギャップが発生することがあります。しかし、だからこそ長い時間軸で捉え、ワクワクする見立てへと解釈し直せることがブランドの面白さだと思います。この曖昧なものに対するアプローチとして、組織カルチャーのあるべき姿や変化の捉え方、内在化のさせ方について考えるきっかけになれば嬉しく思います」(高山氏)

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講演中に返せなかった質問にお答えします

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/08/08 09:30 https://markezine.jp/article/detail/45773

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