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翔泳社の本(AD)

なぜ「最初のファン」が重要なのか? 『ファーストフォロワーのつくりかた』著者が解説

 ビジネスの成長において、ファンの存在感が増しています。ファンマーケティングやコミュニティマーケティングという言葉も一般的になりつつありますが、実際にどうやってファンになってもらえばいいのでしょうか。大手企業のデジタルマーケティング支援を行うトライバルメディアハウス・高橋遼氏の著書『ファーストフォロワーのつくりかた』(翔泳社)では、最初の熱狂的なファンであるファーストフォロワーの重要性が説かれています。今回は高橋氏に、本書を踏まえてファーストフォロワーについて解説していただきます。

その企業のファンならではの振る舞いを理解する

 「ファン」を主軸としたマーケティングの重要性が認識され、ファンマーケティングに取り組む企業が増えていますが、そもそもファンを獲得するために、まず何をすべきなのでしょうか。

 本書『ファーストフォロワーのつくりかた』は、多くの人を巻き込んでファンとして連れてくる力を持っている「1人目の熱狂的なファン」である「ファーストフォロワー」について紐解きました。

 企業がファーストフォロワーと伴走することは、ビジネスを成長させる大きな可能性を秘めています。本書ではこのファーストフォロワー獲得の具体的なメソッドとして、ヤッホーブルーイング、メルカリ、スナックミーほか12社がファーストフォロワーとどのように関わってきたか、その取り組みを取材し、紹介しています。

 約半年間の取材を経てわかってきたことは、「ファーストフォロワーを獲得するための手法を抽出しただけではファンを生み出すことはできない」という事実でした。

 私が取材した企業は、ファンの振る舞いを細かく捉え、ファンを深く洞察していました。そして、その結果から自社サービス独自の価値を生み出し、またその価値をファンとともに広く伝える取り組みを行っています。つまり、ファンマーケティングを成功させるには、先行企業の手法を取り入れるだけではなく、その企業のファンならではの振る舞いを個別に理解していくことが不可欠なのです。

 本書ではこの2つの視点を、

  1. 共に価値を「見つける」
  2. 共に価値を「伝える」

 と分類し、その瞬間、その場所だからこそ成立するファンとの営みによって、各社が価値を生み出したプロセスを解説しています。

 タイトルの「ファーストフォロワー」は、その製品・サービスが好きで真っ先に応援してくれるファンのことです。本書ではファーストフォロワーの特徴を以下の3つの軸で定義しました。

  1. 関与度が高い:その製品やサービスについてリスクを厭わずに利用しており、最も近くでその製品・サービスに接して、自ら体験してくれている
  2. 好意度が高い:製品・サービスに好意を抱き、積極的に支持し、時には応援の意味でネガティブな声を届けてくれる
  3. 影響力が高い:直接的なクチコミや、間接的に生み出されるコンテンツによって、他者に意識変容・態度変容をもたらすことができる

 これらの特徴を持つファーストフォロワーと共に製品・サービスの価値を生み出していくためには、何が必要なのか。先ほどの価値を「見つける」「伝える」という2つの視点から解説します。

ファーストフォロワーと価値を「見つける」

 ファーストフォロワーと共にサービスの価値を見つけるには、彼らの声に耳を傾け、その行動を観察する必要があります。彼らの行動とは、単に「買った」「利用した」という顧客の結果だけを見るのではなく、サービスをどのように使っているのか、楽しんでいるのかをしっかりと観察し、その先にある欲求を見定めることが欠かせません。

 例えば、おやつの定期便を届けるサービス「snaq.me」を提供しているスナックミーでは、サービスの立ち上げ初期から熱量の高い顧客の行動に着目。その顧客がサービスを認知して継続的に利用していく過程の中で、彼らの特徴を明らかにしていきました。

 その結果、snaq.meにとって顧客が価値を感じることはおやつの中身であると同時に、届いたおやつのボックスを開封する瞬間であることを発見し、ボックスを開封する瞬間がより豊かに、楽しくなるようなサービス体験の価値を高めていきました。

 snaq.meの例からわかるように、価値を「見つける」ためのプロセスは主に以下の4つに分けられます。

 行動 → 文脈 → 欲求 → 価値

 snaq.meではカスタマーサポートに寄せられる声を聞き、熱量の高い顧客へのインタビューを繰り返し実施することで、サービスの根幹となる価値の発見に辿り着きました。

 表面的な顧客の行動のみならず、その行動がどのような文脈から生まれているものなのかを考察する必要があります。そして、顧客自身がどのような欲求に基づいてその行動を取っているかを明らかにしていくことで、顧客が感じている価値へ辿り着くことができます。これは必ずしも顧客が直接説明してくれるとは限らないため、顧客に寄り添いながら解き明かしていくことが不可欠です。

ファーストフォロワーと価値を「伝える」

 一方、ファーストフォロワーと価値を伝えるための取り組みには、発見した価値をどのように施策に生かすかという考え方が欠かせません。 snaq.meでは、サービスの価値が最も伝わる「おやつのボックスを開封する瞬間」のUGCに着目。ファーストフォロワーが最も期待している瞬間が表現されたUGCの投稿を促進する施策を実施しました。

 それらのUGCはsnaq.meの魅力が最も伝わるコンテンツであるとともに、サブスクでおやつを買う習慣がないユーザーがはじめてサービスを利用するときの心理的なハードルを下げる役割も果たしていたといいます。 加えて、他のユーザーに届いたおやつのラインナップを見た顧客が、自分にも好みのおやつが届いていることを実感する効果もありました。

 このように、ファーストフォロワーがサービスに対して感じている価値を後押しする施策を展開することで、既存顧客にとってはサービスの価値を実感する効果が生まれ、新規顧客にとっては入会の後押しになる効果が生まれています。「snaq.meのボックスを開封する瞬間」を軸に、価値が循環する仕組みを設計しているのです。

 価値を伝えるための方法は各社によってざまざまですが、その手法は主に以下の3つのパターンに集約されます。

  1. 影響力のあるファーストフォロワーを支援する
  2. ファーストフォロワーの行動履歴をコンテンツ化する
  3. ファーストフォロワー1人ひとりに会いにいく

 取材した各社はこれらの手法を複合的に組み合わせながら、サービス独自の価値を伝える取り組みを行っています。ファーストフォロワーがそのサービスの価値を直接広めるだけでなく、企業としてもファーストフォロワーが感じる価値をコンテンツとして集約し、間接的に広めることができるのは押さえておくべきポイントです。

誰もが顧客と対話できる組織へ

 私が企業のファンをつくる支援をするなかで、最初の一歩として提案するのが「まずファンに会う」ことです。経験上、事業のフェーズを問わず、ファンと直接会い、対話を交わした経験のあるマーケティング担当者はまだまだ少ないという実感があります。

 ファンといえど、1人のお客様であることに変わりはありません。そのため、「ファンに失礼なことがあってはならない」「熱心なファンに質問攻めにされたら答えられる自信がない」といった反応が組織で起こることは不思議なことではありません。

 しかし、本書で取材をした企業や、これまでに実際にファンと交流を深めてきた担当者から一番よく聞くのは、ファンと会って「お客様と向き合う勇気が出ました」という声です。

 マーケティングに従事する人は、「どうすれば1人でも多くの顧客に振り向いてもらえるか」を考えることに多くの時間を費やしています。

 そんななかで「あなたの会社が大好きです」「この商品をつくってくれてありがとうございます」と言われれば、担当者にとってこれほど報われる体験はないのではないでしょうか。

 こうしたことを伝えてくれるファンを生み出すにはどうすればいいのか。まずは、担当者自身が自社サービスのファンであり、最も愛していること。その姿勢こそが重要なのです。対話の際には、過度に知識を武装しておもてなしをしようとするのではなく、ファンのことをもっと知り、サービスをよりよくしようとする姿勢が、ファンには好意的に受け取られます。

 ファンを生み出すしくみをつくるには、「本当に大切な顧客は誰か」を明確に定め、その指針を組織のカルチャーとして継続的に浸透させていくことが欠かせません。

 しかし、企業の規模が大きくなればなるほどカルチャーの浸透は難易度を増します。そのため、ファンづくりに向けて組織のあり方を見直すことから始める企業も少なくありません。

 顧客をコントロールしようとするのではなく、顧客と伴走しながら価値をつくるプロセス自体をマネジメントすることが、継続的にファンと価値をつくっていくために求められています。

ファーストフォロワーのクリエイティビティ

 本書を執筆するための取材で見えてきたことは、ファーストフォロワーとつくる価値が企業にとっていかに想定の範囲外であり、コントロール不可能なものかということです。

 そのため、顧客をコントロールしようとしたり、顧客の意見に盲目的に従ったりするのではなく、伴走しながら価値をつくるプロセスをマネジメントしていく姿勢が重要です。

 私たちはファーストフォロワーが発揮するクリエイティビティに着目する必要があります。ファーストフォロワーは、常に自身にとって価値ある体験を受け取るために、さまざまなクリエイティビティを発揮します。

 それはSNSのクチコミやコンテンツに留まらず、ファンどうしが交流するイベントでの会話や振る舞い、カスタマーサポートに寄せられる声も含まれます。

 こうしたファーストフォロワーのクリエイティビティは製品・サービスの改善や販促にだけ有効なのではなく、自社を取り巻くカルチャーを形づくる源泉となり、ファンマーケティングの土台につながっているのです。

ファーストフォロワーのつくりかた 事例で学ぶ「製品・サービスの価値をファンと共に生み出す」ためのマーケティング

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ファーストフォロワーのつくりかた
事例で学ぶ「製品・サービスの価値をファンと共に生み出す」ためのマーケティング

著者:トライバルメディアハウス 高橋 遼
発売日:2024年3月19日(火)
定価:1,980円(本体1,800円+税10%)

本書について

メルカリ、ヤッホーブルーイング、ポケットマルシェほか、様々な企業のファーストフォロワーが生まれた過程を紐解き、その要因を分析・解説しています。

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この記事の著者

高橋 遼(タカハシ リョウ)

1983年生まれ。2010年株式会社トライバルメディアハウス入社。クリエイティブディレクター。ファンを軸としたマーケティング戦略・実行に従事し、これまでに航空会社、ファッションブランド、スポーツブランド、化粧品ブランド、飲料メーカーなどを担当。著書に『熱狂顧客戦略』(翔泳社)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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2024/06/13 07:00 https://markezine.jp/article/detail/45919

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