基幹システムを含めた大幅刷新を決断したワケ
近藤:ECサイトのリニューアルは基幹システムが関わることから課題が多く、実施をなかなか決断できない企業も多いと思います。そのような中で、ピーチ・ジョンがこのタイミングでリニューアルに至ったのには、どのような背景があるのでしょうか?
宮澤:いくつか理由はあるのですが、いちばん大きいのはこれまで使っていたフルスクラッチのシステムに課題を感じており、パッケージシステムに替えたいと思っていたことですね。フルスクラッチのシステムは、カスタマイズのしやすさなど利点ももちろん多いですが、その反面、世の中の標準と言われることへの対応が難しいと感じていました。たとえば決済方法一つ増やすのもすごく大変で。世の中のトレンドに合わせて都度対応を進めていたのですが、そのたびに本来ならかける必要のないコストが発生したり、思いもしない不具合が出てきたりしていたため、環境そのものを変えることにしたのです。
宮澤:大幅なリニューアルを行う際には、デジタルマーケティングツールの引き継ぎなども行わなければならないため、何を残し、何を変更するかという取捨選択と、どのように引き継ぐかということが非常に重要になってきます。ピーチ・ジョンの場合、約10個のツールを使っており、中でも利用度が高いのがブレインパッドの「Rtoaster」「Probance」です。そのため、リニューアルではこれらを改革の基盤とすることにしました。
近藤:御社には、「Rtoaster」と「Probance」をデータ基盤と施策運用基盤の2つの側面で使っていただいています。データ基盤とは、お客様のサイト訪問履歴やスコア、レコメンドのデータなどのこと。行動レコメンドの精度を上げるためにも、ピーチ・ジョンが「Rtoaster」を活用して10年以上蓄積してきたデータを資産として継承し続けることは、非常に重要ですよね。まさにデータ資産とも言えるでしょう。
近藤:一方、施策運用基盤で言うと、詳しくは後述しますが、「Rtoaster」はピーチ・ジョンのウェブサイトの構造に深く関わっています。極端なことを言えば、「Rtoaster」が停止してしまうとサイトが真っ白になってしまう可能性があるほど、フル活用していただいていますね。
宮澤:そうですね。データ基盤としては継承し続けることに価値があり、施策運用基盤の面でもこれまでのやり方を変える必要はないと考えたため、まったく新しいものを作るのではなく、これまでの基盤を引き継ぐ形で進めました。
「サイズが合うかわからず買いづらい」を解消する
近藤:では、今回のリニューアルはどのような方針をもとに行われたか、お聞かせください。
宮澤:ピーチ・ジョンは通販主体の会社だったこともあり、ECで売上を伸ばしていくことが重要です。ただ、下着という商品の特性上、やはり「通販で購入するのは不安」と感じるお客様も多いです。そういった方々にどうすれば安心して次の一歩を踏み出していただけるかを考えてきました。たとえば、これはリニューアル前からですが、お客様がECで購入した商品を試着してみて合わないと感じられた場合、30日間は返品いただける取り組みを行っています。
近藤:返品率と返品額、そしてそれに紐付くコストを考え、返品に関するコミュニケーションを控えめにする企業もいるようですが、ピーチ・ジョンは違うんですよね。確かに「30日間は返品OK」としたほうが、お客様の購入障壁は下がり、安心して購入できるため、結果的にリピート率の向上につながる可能性があると思いました。
宮澤:ピーチ・ジョンは、コールセンターと物流センターが仙台支社の同じ場所にあることから、密な連携がとりやすいことが強みです。たとえば、サイズが合わないために返品するお客様が多いとわかれば、課題解決に向けて組織横断で取り組みます。
今回のリニューアルでは、これまでのお客様に対する向き合い方をより丁寧にするといった方向性で進めました。たとえばアプリのみで利用可能だった「マイサイズ登録機能」をECサイトでも利用できるようにしました。これにより、会員登録時にデータを入力すれば、次回以降の購入時にはサイズを選ばなくても自動的に反映されるようになっています。同時に、私たちとしてもゼロパーティデータを取得できるので、より精度の高い情報を送ることが可能になります。
宮澤:また、トレンドでもある「骨格診断」や「パーソナルカラー」などのコンテンツも用意することで、お客様によりご自身に合ったアイテムを見つけていただきやすくなるようにしています。
近藤:ピーチ・ジョンのECは商品が羅列されているだけでなく、ユーザーにとって役立つコンテンツが充実しており、「情報サイト」としての価値も高いですよね。
EC上で“パーソナルな体験”を届ける
近藤:ここまでのお話から、ピーチ・ジョンは長きにわたってお客様のことを考えた取り組みを続けており、特に「通販はサイズがわからなくて不安」という声には、リニューアル後も一層力を入れて丁寧に向き合っていることがわかりました。
一方で今回のリニューアルで変えたことがあれば教えてください。
宮澤:ピーチ・ジョンの世界観にこだわれるサイト構成にしています。今まではフルスクラッチで作っていたため、細かい部分をすべて修正しようとすると、費用や手間がかかってしまいました。しかし、今はフレームを使って仕組み化することができています。
他には更新性の高いコンテンツにより力を入れることで、お客様に新鮮な情報を届けられるようにしました。
近藤:ピーチ・ジョンのサイトは「非固定化」が特徴ですよね。「レコメンド枠」だけではなく、「ファーストビュー」や「特集」「カテゴリ」などに出すコンテンツもすべて「Rtoaster」を使ってユーザー毎に出し分けられています。冒頭にお話しした「Rtoaster」が停止してしまうとサイトが真っ白になってしまう可能性がある……というのはこのためなのですが、非固定化にこだわり抜くことで、EC上でパーソナルな体験が実現されています。
レコメンドの種類は数え切れないほどに
近藤:ここで改めて、普段どのように「Rtoaster」を活用していただいているのか教えてください。
宮澤:主に3つあります。まず、マイサイズデータなどのデータを蓄積していくこと。これには行動データも含まれます。2つ目は、レコメンド機能の活用です。トップページのランキングなどに使われており、ルールベースのアルゴリズムで実現しています。3つ目は、コンテンツの表示に関わる部分です。テキストで表示するのか、バナーで表示するのか、あるいはページ内に埋め込むのかという文脈で「Rtoaster」を使い分けています。
最近はポップアップ機能の活用を進めています。流入経路別の設定や、初訪か2回目、3回目かといった訪問回数に応じた出し分けが可能です。お客様は流入シーンで知りたいコンテンツが異なるため、それに合わせたパーソナライズは必須となります。特定のユーザーにバナーを表示しないといった制御も可能になり、適切な接客を行うことができます。使い続けた結果、レコメンド数もルールベース数も数えきれないぐらい増えています。
近藤:流入経路別のパーソナライズ機能は、実は昔からある機能ですが、実際に使おうとすると、機能の細かな設定など非常に大変ですよね。新規のお客様だけでなく、リピーターの方に対しても広告を出さないといった施策は、そもそも獲得型施策とCRM施策を一連で運用している「広告運用」がしっかりと一体化させて行われているからこそ実現できていると思います。
宮澤:「Rtoaster」に関しては、マイサイズ関連のゼロパーティ系データを用いたマーケティング戦略という面ではまだまだ活かしきれていない部分もあるので、今後より一層うまく活用できるよう取り組んでいきたいです。忙しくて時間がないお客様に、その人に合った情報をお届けし、買い物を楽しんでいただけるようなパーソナライズを追求していきたいと思います。
ツール活用の非属人化で安定した活用が可能に
近藤:EC体験をよりパーソナルなものにしようと思うと、企業側の工数は当たり前ですが増えていき、多くの企業では人員・工数不足が課題になっています。さらに、工数不足を解消するためにマーケティングテクノロジーを導入しても、結局社内で1~2名しか使わず、属人化が進み、活用が定着しないというのもよく聞く話です。ですが、ピーチ・ジョンでは「Rtoaster」の活用が10年になりますが、属人化されておらず、社内の多くの人が日常的に使う状態になっていますよね。これはすごく珍しく、非常に素晴らしい点だと思っています。
宮澤:社内におけるツールの日常化はかなり進んでいますね。「Rtoaster」は社内の共通言語になっており、僕たちの通販部署だけでなく、デザイナーなど様々なメンバーが活用中です。急な対応が必要になったときでも、他部署に対応を依頼することなくタイムリーに情報を届けることができています。
近藤:僕はピーチ・ジョンの組織を見て特殊な構造だと思いました。たとえばメールを送る人は、セグメント設定から配信、その後の効果測定まで1人もしくは所属チームで対応することが多いと思いますが、ピーチ・ジョンの場合は作業をうまく分業しているんですよね。
宮澤:そうですね。たとえばバナー制作者は自分の担当業務が終わったらおしまいではなく、実際にどんな成果が出たかまで興味を持ってくれています。みんなで「Rtoaster」を使ってCTRなどの数値をチェックしながらいつも試行錯誤しています。みんなお客様のほうを向いているので、お客様によりよいサービスを届けるためには、自分事としてどうしたら良いかを常に考えている状態です。
また、分業による非属人化が進んだ結果、「仕事の流れを知っている人は特定の人のみ」といった状況ではなくなったため、部署異動や離職によって生じる「リソース不安定化問題」にも対応できるようになりました。また、パーソナライズに力を入れるというと、仕事が増えて大変といったイメージがありますが、組織で対応できるようになっていると思います。
5年後を見据えたEC戦略
近藤:最後に、ECリニューアルが一段落した今、次の5年をどのように見据えていらっしゃいるか、お聞かせください。
宮澤:現在、下着業界は全体的に苦戦しています。そのため、ピーチ・ジョンとしても、自社ECでお客様に商品を購入してもらうために、どのようなサイトにしていくべきかを一層力を入れて考えています。一つの方向性として考えているのは、店舗での体験をECにも取り込むということです。店舗での買い物で味わえる独特の楽しさを体験できるようなコンテンツやサービスをECらしく提供することで、お客様にECらしく買い物を楽しんでいただけるようにしたいと考えています。
近藤:個人的には、時代の変化に伴い今後は「対話型EC」がより主流になっていくと予想しているため、「Rtoaster」の機能を進化させることで、御社を支援していきたいと考えています。具体的には、Conversational Commerceと呼ばれるような、ユーザーが質問を投げかけると、おすすめの商品を提示するようなシステムを近い将来実現しますので、ご期待ください。宮澤さん、本日はありがとうございました。
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