デジマが主流になり、ブランドは「冬の時代」を迎えた
「強いブランド」を持つことは、マーケティングを圧倒的に有利にします。それはまるで、急な坂道を電動アシストサイクルで登るときのようです。どんなに必死にペダルをこいでも、普通の自転車では追いつけません。強いブランドと弱いブランドでは、同じ努力でも成果が大きく違ってきます。そして、ときには残酷なほどの差を生み出します。マーケターであれば誰もが「強いブランドが欲しい」と思うはずです。
ところが振り返ってみると、2010年代は「ブランド冬時代」だったように思えます。SNSを中心としたデジタル・メディアがマーケティング活動の主戦場となるにつれ、製品の提示方法、プロモーション、キャンペーンなどの巧拙が、マーケティング関係者の中心的な話題になりました。結果としてブランドよりも、その「売り方」に注目が集まりました。
デジタル・メディアを中心とした施策の特徴は、いずれもA/Bテストなどで、その効果を簡単に検証できることです。これに対して、ブランドの効果は確認が難しいのが事実です。エビデンスを重視する現代のマーケティングにおいて、ブランドへの関心が低下したのは無理のないことでしょう。
ブランドには効果があるのか
ではブランドには、実際どのぐらい効果があるのでしょうか。実務に携わっている方ならば、一度はこの疑問を抱いたことがあるはずです。
実は数年前、Journal of Marketingというマーケティングのトップ・ジャーナルに、この問題に正面から取り組んだ論文が掲載されました。オランダのティルブルフ大学に在籍する、ダッタ准教授らによる論文です(Datta, Ailawadi, and van Heerde, 2017)。
この論文の特筆すべき点の1つは、消費者向けパッケージ製品を対象とした上で、膨大なブランドを長期間にわたるデータによって分析していることです。なんと、25の製品カテゴリーにわたる290のブランドについて、10年間にもおよぶデータを用いて分析をしています。
結果は明白でした。消費者がブランドについて何を考え、何を感じているかが、市場シェアにかなりの影響を及ぼしていることが明らかになりました。具体的には、ブランドについてよく認識し理解していること(ブランドについての知識)、自分にふさわしくフィットしたブランドだと思っていること(自分との関連性)、そしてそのブランドを好んでおり、高く評価していること(ブランドに対する印象や評価)が、市場における実際のパフォーマンスと深い関係にあることが確認されました。他にも、興味深いことがいろいろ発見されました。