消費者とブランドの絆「ブランド・リレーションシップ」とは?
意外と知られていないのですが、「ファン・マーケティング」の研究にはかなりの歴史があります。ただし、ファン・マーケティングというのは実務用語で、学術的には「ブランド・リレーションシップ(brand relationships)」といいます。
ブランド・リレーションシップは、消費者が感じる「ブランドとの絆」のことです。あるいは「ブランドへの愛着」と思っていただいても結構です。ブランド・リレーションシップ研究では、「愛されるブランド」について、様々な考察や分析が行われてきました。
図1は、ブランド・リレーションシップに関する学術論文の動向を示したものです(久保田, 2024a)。ブランド・リレーションシップに関する研究は1990年代後半から現れ始め、2000年以降盛んに研究されるようになりました。
こうした傾向は現在でも続いていますが、私の感覚では2020年代に入り、その内容はだいぶ成熟してきたように思います。効果的なファン・マーケティングのための理論が、ようやく整ってきたわけです。今こそ、ブランド・リレーションシップ研究で得られた膨大な知見を活用すべき時でしょう。

(出典:久保田, 2024a, p.4)
代表的な学術データベースの1つであるEBSCO(Business Source Premier)を用いて、2024年2月12日に作成したもの。ブランド・リレーションシップに関する学術論文の本数は、査読付き学術専門誌を対象として、“brand relationship” “brand relationships” “self brand connection” “self-brand connection” のいずれかが含まれている論文を検索することで算出
愛されるブランドの仕組みを知る5つのポイント
ブランド・リレーションシップに取り組むには、愛されるブランドの仕組みを知るのが近道です。愛されるブランドの仕組みを知るのは、さほど難しいことではありません。ブランド・リレーションシップ(ブランドとの絆)について、5つのことを理解するだけです。
- ブランドとの絆とは何か?
- 顧客はどのくらい絆を感じているのか?
- 絆が形成されると、何が起きるのか?
- どうして絆が形成されるのか?
- 絆だけが大切なのか?
まず、当たり前ですが「ブランドとの絆」が曖昧では、絆の形成には取り組めません。そこで、ブランド・リレーションシップというコンセプトについて理解を深めます。
次に、自社ブランドのユーザーは、「どのくらい絆を感じているか」を知る必要があります。ブランド・リレーションシップの強さの測定です。
3つ目は「絆の効果」の整理です。もし、ブランド・リレーションシップが自社に利益をもたらしてくれないならば、それを育成したり維持したりする意味はないでしょう。
4つ目は「どうして絆が形成されるのか」の解明です。ブランド・リレーションシップの形成メカニズムがわかれば、マーケティング活動を効果的に進められます。
最後は「絆だけが大切なのか」を検討することです。ブランド・リレーションシップを形成してファンを育成するだけでなく、新規顧客を獲得したり、ごく一般的なユーザーを維持したりすることも、重要なマーケティング課題です。これらのバランスをどのようにとるかは、戦略的な資源配分といえるでしょう。
言葉にすると複雑そうに見えますが、図にしてみるとごく単純な仕組みであることがわかります(図2)。愛されるブランドの仕組みを知るには、たった5つのことを理解するだけです。

強いブランドを手に入れるには、じっくり構えて、論理的に行動していくことが求められます。私は、これまで約15年にわたり、ブランド・リレーションシップの研究を行ってきました。そして先日、その成果を一冊の本にまとめました(久保田, 2024b)。

ちょうど良いタイミングなので、MarkeZineの読者の皆さまにも、本連載を通じてそのエッセンスをお届けすることになりました。次回以降は、上述した5つのポイントそれぞれについて、わかりやすく説明していきます。ブランド・リレーションシップの研究結果を活用していくことで、強いブランド作りを一緒にかなえていきましょう。
【参考文献】
- Datta, Hannes, Ailawadi, Kusum L., van Heerde, Harald J. (2017). How Well Does Consumer-Based Brand Equity Align with Sales-Based Brand Equity and Marketing-Mix Response? Journal of Marketing, 81(3), 1–20.
- 久保田進彦(2024a) 「ブランド・リレーションシップの基礎知識」『青山経営論集』59 (1), 1-29.
- 久保田進彦(2024b)『ブランド・リレーションシップ』有斐閣.