競合他社と似た主張を避けた名コピー
田部:寝具業界のマーケティングは「商材の買い替えが頻繁に発生しない」「競合が多い」などの観点から、難易度が非常に高いと言えます。そのような市場環境において、尾澤さんは顧客に自社製品の独自性や価値をどのように伝えていますか?

尾澤:言語的要素と視覚的要素を組み合わせた広告やコミュニケーションを展開しています。言語的要素の一例が、約1年前から用いているコピー「この寝心地は、事件だ。」です。

尾澤:自社商品のテクノロジーには自信がありますが、機能性の高さをどれほど謳っても、競合との差別化を図るのは難しいものです。「体圧分散」という文字だけでは、多くの消費者に効果が伝わりづらいかもしれません。「競合と似た主張をするのではなく、インパクトが大きい別の表現ができないか」と考えた結果、生まれたのがこのコピーでした。
田部:なるほど。他とは違うコピーは、認知としての差別化につながると思います。とはいえ、マットレスは実際に体験してみないと良さがわかりにくい商品でもありますよね。その点、コアラマットレスの「ワイングラスチャレンジ(※)」は、商品の魅力を非常にわかりやすく伝えていると思います。
※ワインの入ったワイングラスを真っ白なコアラマットレスの上に置き、人がマットレス上でダイブしたり飛び跳ねたりしてもワインがこぼれない様子を通じて、商品の速振動吸収性を伝えるもの。公式のチャレンジ動画がSNSを中心に話題を集め、UGCの創出につながった
尾澤:ありがとうございます。それがまさに視覚的要素の部分です。ワイングラスチャレンジの動画は2018年頃から展開しています。最初は資金が限られていたため、iPhoneを使用して創業者の二人が飛び跳ねる様子を撮影しました。この動画が話題を集め、一時的なブームが起こったんです。その後、コロナ禍にともなう需要高が追い風となり、事業は成長を遂げました。
施策の新しさよりも目を向けるべき資産
尾澤:事業成長の勢いが落ち着き始めると、「ワイングラスチャレンジの動画は飽きられたから、新しい動画をつくる必要がある」という雰囲気が社内に生まれました。ただ、マーケティングのカンファレンスで業界の方々と名刺交換をすると、半数以上の方から「コアラマットレスといえば、ワイングラスの動画ですね」と言っていただけて。つまり、ワイングラスチャレンジがお客様の記憶に強く残るブランド・エクイティとなっているわけです。私は会社に戻り、ワイングラスチャレンジの復活を宣言しました。

尾澤:最初は単に珍しさから反応があっただけだと考えていましたが、お客様の声を詳しく聞いてみると、言語化は難しいものの、映像を見た瞬間に「このマットレスはすごい」と感じていただけていたことがわかりました。激しい動きでもワイングラスが揺れないことから、直感的に「優れた商品だ」と認識してもらえたようです。現在はワイングラスチャレンジの登録商標を取得し、アイコン化して商品やWebサイトに使用する取り組みを進めています。
動画を制作する際は、競合にはないコアラスリープらしさ、つまり“クスッと笑ってしまうようなユニークな印象”を残しつつ、商品の優れた点を伝えるよう心がけています。