今後重要となるターゲティングと測定の「一気通貫」
本来、広告主は自社製品やサービスに対してターゲットのプロフィールやライフスタイル、意識クラスターなどを具体的に設定するはずですが、メディアバイイングやその効率性を評価するためにはデモグラなどに一旦置き換える必要がありました。
デモグラは元々正解値が存在するため、ターゲティング(メディアプランニングやバイイング時点)と測定(キャンペーン実施中/事後)がバラバラに行われていても精度面以外はさほど問題はありませんでした。あるとすれば国内で使用されるデモグラのセグメント幅が少し広過ぎるということで、それは今後年齢区分などの自由度が増せば解決されると考えます。
問題は趣味嗜好やカスタムセグメント、今後重要となるアドバンスト・オーディエンス(※3)の場合です。こちらは広告主、メディア、測定事業者の3者間で定義やターゲット母数が必ずしも同じとは限りません。たとえば「旅行・レジャー」セグメントと言われても何を基準にそのセグメントに紐づけられているのかはまちまちです。確らしさがはっきりしません。当然、対象となるターゲット母数も異なります。
(※3)デモグラを超えて趣味や興味、消費行動、ライフスタイルなどのデータ統合や分析による高度で精密なセグメンテーション
ターゲティングと測定の「一気通貫」、つまり共通化が必要です。米国のように、広告主、メディア、測定事業者の3者間でID連携化が進むことが望まれますが、そうなった際も総量評価のインプレッション取引なら地上波のテレビCMも対応できます。
これまで購買データなどの価値あるデータも、ヒートマップの濃淡でしか活用できなかったのはもったいないことでした。たとえば主婦向け洗剤で、自社製品のユーザー・非ユーザーとF2やF3層などのテレビ視聴とヒートマップで比較して、より効果がありそうな時間帯でメディアプランニングを行うなどです。
これはこれで価値ある取組みだと考えますが、最終的にはやはりGRPでバイイングしなくてはならないところにネックがありました。そもそも、そのポテンシャルが高い枠だけが必ずしも線引き(作案)されてくるとは限りません。
総量評価によるインプレッション取引の仕組みは、最終的にCM金額とtotalTCPMが取引基準となりますので、それらをそのまま取引指標として取り込めます。どの視聴データを使うのか、購買データも利用するのかの選択肢が広告主に増えます。米国で進む「マルチカレンシー(多通貨)」でのテレビ広告取引は、広告主からも強く望むべきです。
マルチカレンシーになれば、デモグラにおいても従来の12区分から若者層をもっと細かく区分するとか、あるいは広告主が年齢区分を自由に決めてカスタムセグメントでバイイングすることが可能になります。
購買データでも、たとえばガソリン給油のハイオク/レギュラーと未利用、それらと年齢区分を掛け合わせる、あるいは所有車種やライフスタイルなどの詳細データで絞り込んで直接インプレッション取引することなども可能です。今後リテールメディア・ネットワーク(RMN)の購買データなどもオフサイト領域で活用できるようになるとインプレッション取引の価値は増します。
さすがに、どこのデータでもいいという訳にはいきませんが単一通貨だけに固執することなく、マルチカレンシーを導入することは広告主にとって大きなメリットとなるでしょう。

GRP取引のもう一つの課題であるCPMのエリア差
最後に、広告主にとってGRP取引にもう一つ課題があるのはCPMのエリア差です。算出の基は各広告主の%コスト(持ち単価)ですが、この決定要件がはっきりとはせず正直わかりにくいです。広告主の%コストはCPMで比較してみると放送エリア毎に実にバラバラです。
そうなった歴史的な背景、現在の地域経済状況やCM需給関係などの影響があることはもちろん理解していますが、このCPMのエリア差を明確に説明できる人もいないのでないでしょうか。
図表4は、筆者独自集計の参考値ですが全国32放送エリアのCPMを比較してみたものです。デジタル広告は原則的に全国一律CPMですが、テレビCMの場合、これらを勘案してメディアプランニングすることを非常に難しくしています。
東阪名で全人口の約6割を占めますから、誤解を恐れずに書くと残り29エリアのメディアプランニングも全て“同じ熱量”ではやれてないのではないかと思います。

それがインプレッション取引であれば改善できます。各エリアの細かな%コストにこだわるよりも、できるだけ早くCPM差を均して全体のターゲット効率を改善するための管理をしていく方が広告主にとっては得策のように感じます。
そもそもこの全国32の放送エリアによる区分は広告主のマーケティングエリアとは合致しないことがほとんどです。これでは説明責任も強く求められる広告主側担当者の「マーケティング指標」としては役に立ちません。
さらに各種事情で、放送エリアの広域化や放送番組の同一化などの話が近年ありますが、そのためには、たとえば九州・沖縄エリアをひとつとした際のテレビCMの適正価格はいくらか? を整理する必要があります。
現状の%コストを単に積み上げるということでは(実際には%コストは率ベースなので積み上げられない)広告主としては納得性することはできないでしょう。そもそも%コスト自体が広告主によっても異なります。
また、マーケティング指標では関東エリアは広すぎて逆に2分割したい場合もありますし、広告主の支社・営業エリア区分も事業規模、各業種などによっても様々です。それらの投資対効果と連動させるためには、GRP取引の基となる視聴率を使い続けることでは困難です。

以上のような視点から、インプレッション取引の導入は広告主から急かして進めるべきだと考えています。今より損をするという観点ではなく、テレビCM取引の変革は広告主にとっての進歩だと捉えていただきたいと思います。
以上、7回にわたった「テレビはどう生き残るか~鍵を握る『インプレッション取引』を成功させる仕組みとは~」の連載をここで終えますが、この連載は現在のテレビ局がおかれた状況を揶揄するためのもではありません。
時代の流れとともに、テレビの視聴量も視聴スタイルも大きく変化はしていますが、テレビほど広告主にとって安心で信頼できるメディアも他にはないと感じています。これまでも、これからも広告主と消費者をつなぐ広告メディアとして強く存在し続けてもらわないと困る人たちが多くいます。
「インプレッション取引」を成功させる仕組み、みなさんと一緒に進めていければと思います。