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テレビはどう生き残るか~鍵を握る「インプレッション取引」を成功させる仕組みとは~

テレビCMの「インプレッション取引」を成功させるためのアイデアと仕組み

 関東キー局の2023年度決算が出揃い、ほぼすべての局でタイム、スポットともに前年を下回るという厳しい状況が明らかとなった。テレビ局が生き残っていくために、テレビCMセールスの変革は待ったなしの状況だ。テレビ局・広告主ともにWin-Winとなる変革として、筆者が提案するのが「インプレッション取引」への転換である。今回は、テレビCMのインプレッション取引を成功させるための具体的なアイデアと仕組み、新指標として提唱する「トータルターゲットCPM」について解説する。

現在の地上波テレビCMで「アドレサブル広告」は実現しない

 前回、「プログラマティック取引」は必ずしもリアルタイムである必要はないとお伝えしました。またテレビCMをプログラマティック取引市場に解放するよりも前に、取り組むべき大切なことがあるとも述べました。

 それは、テレビCMの価値をインプレッション指標で「再定義」することです。

 たしかにストリーミング(CTV広告)やその他のデジタル広告と同様に、地上波のテレビCMも各種データに基づいてテレビ端末毎にバイイングできるようになることは非常に魅力的です。しかし、現行の国内テレビ放送方式ではそのような“アドレサブル(個別)”にテレビCMを出し分けることは不可能です。

 それを実現するためには、たとえば欧州のDVB-Iのような放送をインターネット(通信)の一部として置き換えていく技術であったり、放送と通信をハイブリッド統合してしまうHbbTVであったり、あるいは米国の次世代型テレビ放送規格ATSC3.0のように放送そのものにインターネット同等の機能を持たせていく仕組みで、CSAI(※1)と呼ばれる視聴端末側で広告を個別に出し分けられるデジタルの動画広告と同様の技術などが国内の地上波テレビCMにも必要です。

(※1)Client-Side Ad Insertion(クライアント側広告挿入)

 ですが、日本の民放は欧州のように全国放送ではなく各放送エリアの系列局がネットワークを結ぶことで全国に放送を行なっているため「発局(※2)」が適宜切り替わっていくことも少なくなく、欧州同様の規格としていくことにはハードルがあるようです。さらに、ネット番組以外でもローカル局が設備投資面などで個々に対応できるかの問題もあります。

(※2)ネット番組の送り出しを行う局。大半は在京局(関東エリア)によって行われる。

 国内でもリアルタイム配信(放送同時配信)をコネクテッドTV(CTV)でも視聴できるように解放すればアドレサブル配信は実現しますが、そうなるとローカル局はたまったものではありません。その分がなんらかの分配金(ネットワーク収入)同様の形で担保でもされない限り、地上波の広告収入にどんどん影響しローカル局の経営をさらに圧迫していきます。

 また、一時期は少し下火だと思われていたATSC3.0ですが、ここに来て米国では急速に市場が拡大し、米ローカル局からの期待も高まっています。しかし、こちらは「後方互換性がない」ことが問題にあげられます。つまり、ATSC3.0が完全に活用されるためには視聴者側がそれに対応する新しいテレビ端末に買い換えるか、ATSC3.0に準拠したドングル(小型デバイス)などを準備することが前提となります

 いずれにしても、国内のテレビ広告業界としてこれらに期待するのはまだ先のことになるでしょう。もしかすると実現しないのかもしれません。では、国内の地上波テレビCMにおいて、今やれることは何でしょうか。

テレビCMのバイイングは「インプレッション取引」によって簡潔になる

 前回までに若者層を中心としたインプレッションだけでCMセールスをしても、十分にテレビ局収入は増額できそうであるという試算をしました。

 しかし、二つの総収入試算で使用したやや極論な例は、現状のテレビCMの平均CPMが安すぎるのではないか? ということを端的にご理解いただくのが主旨であって、「すべてを同じセグメントでデジタル広告っぽくインプレッション指標のセールスをしよう」という浅慮な施策をご紹介するためのものではありません。当然、公共財であるはずの放送波によるテレビCMが若者層だけに向けられる、あるいは特定の広告主だけが恩恵を受けるような状況などは好ましくないことです。

 そこで、RTB(リアルタイム入札)する程の絶対量はない地上波のテレビCMだからこそ実施できる仕組みを考えてみます。その際、現状ではセグメント毎に切り売りすることができないテレビCMをどうやってインプレッション取引するのか? というアイデアが必要となります。

 この課題は、これまでご紹介してきたように視聴実態を率から実数で捉え直し、CM単位で視聴者をセグメント毎に「ターゲットCPM(TCPM)」で評価することで解決できます。図表1に例を示しました。

複数の広告キャンペーンに対して、デモグラセグメント毎にターゲットCPMが設定された例
【図表1】複数の広告キャンペーンに対して、デモグラセグメント毎にターゲットCPMが設定された例(クリックすると拡大します)

 図表1ではNo.1から20までの広告主あるいは広告キャンペーンにおいて、それぞれがセグメント毎に異なるTCPMを設定したと仮定しています。つまり、広告主がターゲット毎の価値を分けて評価するということです。

 これまでは個人全体の%コストでバイイングして、メインターゲットだけのターゲット含有(率)や獲得したターゲットGRP、その単価などを評価する、あるいは何かしらの縛りや補償をつけるというような商習慣でした。そのため、当然、広告主としては「メイン以外」の効率性にまでわざわざ譲歩する必要もなかったことでしょう。

 しかし、実際のプロモーションではいくつかのサブとなる「周辺ターゲット」も存在するはずですから、それらもCMバイイングの指標とできるのであれば、もっと精緻な検討を行うべきだと考える広告主は少なくないでしょう。もしかすると「いや、そんなことをしたらすごく細かく、面倒臭くなってしまうではないか」と感じる方もいるのかもしれませんが、会社から預かる貴重な広告宣伝費ですし、全国32もある放送エリアの%コストがCPMで見るとバラバラで説明がつきにくい大きな差があることを考えれば、ターゲット毎の価値を一つ一つ設定することなどは造作ないことに思えます。

 そもそもこれは毎度毎度行わなければならない作業ではないですし(広告主やキャンペーン毎のターゲット設定が毎回大きく変わる訳ではないはずなので)、エリア別の広告予算に戦略的あるいは売上実績などに基づく意図的な強弱が必要なければ、ほぼ全国共通の作業で済みます。今までエリア毎に配分や局別の価格交渉にあてがっていた時間と労力をCTV広告やSNS対策など、他のプロモーション施策の作業に回すことも可能です。

 ある意味、テレビCMプランニングやバイイングの作業は「インプレッション取引」によってもっと明瞭で簡潔になります

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この記事の著者

横山 隆治(ヨコヤマ リュウジ)

横山隆治事務所 代表取締役ベストインクラスプロデューサーズ 取締役トレンダーズ 社外取締役1982年青山学院大学文学部英米文学科卒業。同年、旭通信社(現・アサツー ディ・ケイ/略称:ADK)に入社。インターネット広告がまだ体系化されていなかった1996年に、日本国内でメディアレップ事業を行う専門会社「デジタ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

楳田 良輝(ウメダ ヨシテル)

株式会社プログラマティカ 代表取締役社長関西学院大学卒。広告会社で営業部門を経験後、経営及び人事部門でデジタル領域への投資・事業戦略や組織・制度変革等を担務する。メディア部門を担当後、デジタルエージェンシーを経てコンサルティング会社に経営参加。大手広告主に対するマーケティング・コンサルティング業務等...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/08/26 15:24 https://markezine.jp/article/detail/46157

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