テレビCMを1本単位で評価する「トータルターゲットCPM」とは?
さて、図表1に戻ります。TCPMの設定は、デモグラだけでなくカスタムセグメントが混在していてももちろん問題はないのですが(というよりも、これからのテレビCMにおいてはカスタムセグメントの方が本筋であるべきですが)、ここでは本図表をできるだけ簡潔にするために、抜け落ち重複のないデモグラの12区分ですべてのTCPMが設定されたとします。
No.1〜6は女性ターゲット、No.7〜12は男性、No.13〜18男女、No.19はコアターゲット(男女13〜49歳)、そしてNo.20が個人全体です。

たとえば、No.1ではメインターゲットの女性子ども(FC)がTCPM3,000円、その母親層(F2)は1,500円、周辺ターゲットとして女性ティーン層(FT)に2,000円、F1(女性20〜34歳)は500円としました。F1の一部には価値を感じているため少額ですが評価しています。もし、F1の年齢幅をもっと細かく分けられればTCPMはもっと高く設定できます。F3以上、男性群はテレビCMの投資効率対象には含みません。つまり、それらのインプレッションには価値を感じず、データ費用のみの最安値1円としています(これは視聴データのCPMが1円でいいという意味ではなく、データ費用をTCPMに含んで設計しているとご理解ください)。
この辺りは消費財メーカーでマス型に近い商品であるとすれば、TCPMが1円というのは行き過ぎかもしれませんが、この図表では、考え方としてできるだけTCPMに強弱をつけてご説明しています。
同様にNo.2はFT(女性13〜19歳)をメインターゲットとしてTCPM2,500円、周辺ターゲットは同性上下年齢層を中心に、それよりも低いTCPMで段階的に評価しています。No.3以下はF1、F2、F3、F4とそれぞれがメインターゲットである時に、各セグメントのTCPMを周辺ターゲットも含めてすべて設定します。
No.7〜12の男性ターゲットも同様です。一旦No.1〜6の女性群と同じTCPMで設定します。
No.13〜18は男女ターゲットの場合です。TCPMの傾斜は上記と同様につけていますが、男女両方にターゲットが存在していますので、理屈上、女性だけ、男性だけの時よりは低いTCPMを設定します(つまり、F1だけのTCPMよりも、F1とM1のそれぞれのTCPMは低く、かつF1+M1で見た時はF1だけよりも高くなる)。
最後のNo.19コアターゲットはCPM1,000円、No.20個人全体はCPM350円と、前回までに行った試算を参考値として設定します。
こうして広告主あるいはキャンペーン単位ですべてのセグメントにTCPMが設定されると、GRP取引のようなまとめ売りではなく、CM1本単位でそのCM枠がいくらの金額となるか(どう評価されたのか)が計算できます(図表2)。

ここでは%コスト15万円でGRP取引される場合に計算上345,000円となる個人視聴率2.3%のCM枠を例として見ています。総インプレッション数では892,938imps(回)です。
設定したデモグラは12区分ありますので、メインターゲットを「t1」として「t12」までの各セグメントのTCPMとインプレッション数を掛け合わせて合計するとNo.1〜20のCM金額がそれぞれ算出できます。

そして、各CM金額を総インプレッション数で割ってやることで「トータルターゲットCPM(totalTCPM)」として広告主が評価するこのCM枠の加重平均されたCPM、つまり総量評価が計算できることになります。これがテレビCM取引の新たな指標となります。テレビ局収入を増額させるためには、現状340円前後(関東エリアを例に)の平均CPMを500〜800円程度まで引き上げていければインプレッション取引は一旦成功だと考えています。

totalTCPM(総量評価)の計算式は一般化すると次のようになります。

totalTCPMを計算する必要があるのは、単純にCM金額だけではインプレッション取引が成功できないと考えるためです。CM金額はある程度インプレッション数が多ければ金額も高くはなっていきますので、それだけではテレビ局にとっても、広告主にとっても、そのCM枠が効率よく売買できたか否かの判断基準にはならないからです。
ただし、一つの視聴データだけですべてのインプレッション取引を行う場合はこのtotalTCPMで見ても、単純にCM金額だけで見ても、テレビ局にとって一番収入が高まる選択肢は変わりません。
しかし、今後、広告主側が使いたい特定のデータやカスタムセグメントでインプレッション取引を可能にすることや、テレビ局側も自局にとってより価値が高いデータでセールスできるようにするためには「マルチカレンシー(多通貨)」の採用が求められます。
そうなると、インプレッションの定義や母数などがそれぞれ変わってきますので、最終的な取引基準はCM金額とtotalTCPMの両方が必要となっていきます。
なぜなら、テレビCMとCTV広告を統合指標で見る場合にも、CTV広告が必ずしもデモグラでターゲティングされたものだけでバイイングされるとは限りません。デジタルが主、テレビが従となるキャンペーンにおいては、テレビCMの指標をそれに合わせていけるようにしなければなりません。
特に、注目されているリテールメディア・ネットワーク(RMN)の「オフサイト領域」のデータ活用先としてのCTV広告は本丸ですから、地上波テレビCMもそこに加わっていけるようになることがテレビ局の収入を今後より押し上げることになるでしょう。
でなければ、インプレッション取引が仮に導入されたとしても、決まったデモグラセグメントでしかバイイングできないことになり、見た目の指標だけが違う、これまでのGRP取引の延長線上に留まってしまいます。もしデモグラだけなら若者層は5歳刻み以下に、できれば自由に広告主の要望に対応したいところです。従来のパネル視聴データだけでは厳しいですが、それがテレビの生き残る道だと考えます。