テレビはどう生き残るか~鍵を握る「インプレッション取引」を成功させる仕組みとは~
─ テレビCMセールスに迫る変革の時。「GRP取引」から「インプレッション取引」へ(本記事)
─ GRP取引が持つ課題とは。テレビの本当の価値を「質と量」で捉え直す
─ テレビCMの価値を再定義するために不可欠なのは、デジタル広告と同様の「ターゲットCPM」
─ 「インプレッション取引」でテレビ局のスポットCM収入はどう変わるか。総収入試算と仕組みへの課題
─ テレビCMの「インプレッション取引」を成功させるためのアイデアと仕組み
─ 「インプレッション取引」と「GRP取引」の共存で局収入は最大化する
─ 「インプレッション取引」の導入は広告主から急かすべき?広告主視点でテレビCMセールスの変革を考える
変革が求められる「テレビCMセールス」
5月上旬から中旬にかけて、関東キー局の2023年度決算が発表されました。地上波の広告収入が軒並みマイナスであることは、もう驚くべきことではないのかもしれませんが、スポット収入のマイナスはさらに加速しています(図表1)。テレビCMセールスの変革の必要性は、もはや待ったなしの状況と言えるでしょう。では、その変革の鍵はどこにあるのでしょうか。
テレビCMセールスにおけるスポットは、本数単位の取引から始まり、そこにタイムランクの考え方(時間帯ゾーン別の価値)を加え、1970年代半ば頃から現在の視聴率を基準とする「GRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)取引」へと移行していきました。スポットは、テレビ局の地上波広告収入の概ね半分を占めますが、本数ベースではタイムの約3倍の量を取引しています(放送エリアや局により若干差はあり)。GRP取引は、それを事故なく、少人数で効率よく回すためには非常に優れた仕組みでした。
しかし、導入から半世紀が経ち、このGRP取引が少々時代に合わなくなってきています。テレビCMの量は民放連の基準により、放送時間における18%までと上限が決まっており、各局ともにその上限にすでに達しています。つまり、CM量はもう増やせません(※1)。となると、局の広告収入を増加させるためには、視聴率をもっと上げるか(広告在庫が増える)、あるいは広告主との契約%コスト(GRP取引での単価)をアップしてもらうしかありません。しかし、そのどちらも容易なことではないでしょう。
(※1)サブチャンネルの放送時間と合算してCM総量を増やすような方法も考えられなくないが、視聴者のユーザビリティ観点からここでは検討しない。
「GRP取引」から「インプレッション取引」へ
そこで、筆者が提案するのが「GRP取引」から脱却し、テレビCMセールスにおいても「インプレッション取引」を取り入れていくことです。
実は、テレビCMは、MF1-2(男女20〜49歳)だけのインプレッション(広告表示/広告表示回数)で取引してもスポット収入は大きく増加させられる可能性があることがわかってきました。その際の想定CPM(Cost Per Mille:広告表示1,000回当りの費用)もCTV広告と比較して決して高い訳ではありません。
現在のテレビCMはあまりにも安く取引され過ぎなのではないでしょうか。その価値にディスカウントが発生していると考えています(図表2)。しかし、そうなる理由もありそうです。
今回の連載は、テレビ局がCM枠の価値を表現し、CPMを上げること、買い手の広告主も価値ある枠だけを効率的にバイイングする機会を作ることを提案するものです。テレビ局も広告主も結果Win-Winになるものです。
筆者はかれこれ10数年前に、個人GRPをインプレッション数に換算することでデジタル動画とテレビを同じ土俵に上げられないかという提案をしました。この考え方は、今では多くの代理店、またテレビ局で取り入れられています。しかし、最初の提唱者として言えるのは、「インプレッション換算すること」と「インプレッション数でテレビCM枠を売る」ということは似て非なるものだということです。
今のGRP売りの延長線上でインプレッション売りをすると大変なことになります。それこそテレビ局は潰れます。そんなに単純なことではないことを、局の経営者は肝に銘じましょう。
この連載では、かなり具体的にインプ売りを成功させるための方法を明示していきます。
その前に、ここで前章として、現状のテレビCM枠とデジタル動画広告枠について評価してみたいと思います。