テレビCMの最大の課題は入門ハードル
MarkeZine編集部(以下、MZ):本連載では、リクルートの英語学習アプリ「スタディサプリENGLISH(以下、スタサプENGLISH)」の約30本のCM制作を手掛けられた奥田さんに、視聴者の印象に残るCM施策の進め方について知見を伺っていきます。
奥田:「スタサプENGLISH」は、2015年にリリースされた英語学習アプリです。最初はデジタル施策だけでしたが、より一段のグロースの為にマスプロモーションを実施し、そのトライアンドエラーの中でCM制作のナレッジを開発してきました。現在はこのナレッジを、社内の他サービスにも横展開しているところです。
MZ:テレビCM施策において、特にどのような課題が多いのでしょうか?
奥田:一番は「入門ハードルが高い」ことだと思います。デジタルマーケティングは短いスパンでトライ&エラーしながら学べますが、CMは一発のインパクトが大きい分リスクやコストも大きく、誰もがそう簡単に試せる施策ではありません。
実行する際も、クリエイティブを代理店様に完全にお任せしてしまったり、反対に広告主側がすべて決められると思い込んでしまったりするケースもあります。
一方で、調査やデータを基にPDCAを回せるようになり、体制や組織作りが進められる状態を実現できた場合も、「勝ちパターン」に固執することで似たようなクリエイティブばかりが生み出される壁にぶつかってしまうことが多いです。
広告代理店が持つ、CM制作に関するナレッジとスキル。広告主、マーケターが持つ顧客像や調査データといった「顧客の解像度」を高める情報。マーケターはフラットなディスカッションを通じて、両者を一つのチームにし、ナレッジとスキルを融合することが求められています。
「15秒でさえ長い」と感じる消費者にいかに見てもらうか
MZ:昨今のCM領域において、どのような変化がありますか。
奥田:CM作りの手法でいえば、私が携わり始めた当時は、今ほど状況が整っていませんでした。当初はコンセプトボードの調査結果のみを見て制作したり、一発制作に挑んでいたりという時期もありましたし、実際に放映してみたらまったく結果が出なかったこともありました。そこで、そうした失敗につながるもっと手前で「ビデオコンテ(Vコン)化」による検証はできないかと考え、フレームの部分のアップデートを続けてきました。
消費者側の変化も見られます。近年はYouTube shortやTikTokなどの短尺動画が流行り、「15秒でさえ長い」と思う消費者が増えました。CMをどうやって見てもらうかという工夫、すなわち最初の1秒で引き込まれることやCM自体にコンテンツ性があることの必要性が、以前よりも高まっていると感じます。
「スタサプENGLISH」に関しては、5年前はアプリで大人向けの本格的な英語学習ができること自体がまだ新しかったのですが、今ではそれも当たり前の状況です。プロダクトアイデアとしての新規性がなくなっている中、顧客に知ってもらうにはコミュニケーションアイデアの工夫がより必要です。