SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第104号(2024年8月号)
特集「社会価値創出につながる事業推進の在り方とは?」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

グローバルの風向き、トレンドを知る。海外カンファレンスレポート

DX推進には従業員エンパワーメントが重要、エルメス・PPIHのケースから考える

 シンガポールで2024年6月11日~13日の3日間に開催された小売の祭典「NRF Retail's Big Show APAC 2024(以下、NRF APAC2024)」の主要セッションや展示の様子と、複数のブランド旗艦店舗を実際に筆者が訪れた体験から、小売業界へのヒントをお伝えする本連載。第2回はDX推進時のテクノロジーとの向き合い方について紹介する。

エルメスに学ぶテクノロジーとの向き合い方

 デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)というワードが一般化してしばらく経つ。社会的潮流や技術革新により様々なテクノロジーが登場し、他社に遅れを取るまいと最新テクノロジーの導入に振り回されている企業も多いのではないだろうか。

 そんな中「自組織に新しい技術を採用する際は慎重にならなければならない」と警鐘を鳴らしているのがラグジュアリーブランドのエルメスの技術責任者のケン・フェイダー氏である。

(右) Ken Feyder/VP, Head of IT, Americas HERMES(提供:NRF)
(右) Ken Feyder/VP, Head of IT, Americas HERMES(提供:NRF)

 フェイダー氏は歴史上の小さな瞬間がイノベーションを起こす一例としてバーキンバッグ誕生のストーリーを語った。それは1984年、パリからロンドンに向かう飛行機にエルメスの元会長ジャン=ルイ・デュマ氏と女優ジェーン・バーキン氏が偶然乗り合わせた際の出来事だ。

 ジェーン氏が頭上のコンパートメントに荷物を上げるのに苦戦した際にこぼした「機能的で美しいバッグがあったら最高なのに」という言葉に、ジャン氏はデザインの着想を得、バーキンバッグが生まれたという。

 イノベーションの種は常に顧客一人ひとりの個人的で生々しいインサイトとの触れ合いの中にある。それがフェイダー氏の見解であり、今後も変わらないと提言した。

テクノロジーは人間の代替ではなく能力を強化するもの

 セッションではいくつかエルメスにおけるテクノロジーの活用事例について触れられた。フェイダー氏が「ITリーダーシップの原則はブランドのDNAに適合する必要がある」とポリシーを語ったが、エルメスのDX指針そのもののように捉えられる。具体的な活用例を紹介したい。

デジタルカタログを用いたリッチな店舗体験

 1つの店舗だけでは保有し展示できる商品は限られている。デジタルカタログは高解像度で、厳選された商品を世界中のあらゆる店舗でプレゼンテーションすることを可能にする。

 ここでのデジタルカタログはプレゼンテーション=店舗スタッフを介した顧客とのコミュニケーションのきっかけとしての位置づけであり、オンラインショッピングを便利にすることを主眼に開発されたのではない。顧客とブランドの関係性を深めるために対人接客を通じた店舗体験を増幅することを目的としているのだ。

意思決定のためのBIダッシュボード活用

 ブランドへの期待に応えるためにはデータ基盤も重要である。顧客とブランドのコンタクト履歴を正しく把握し、世界中どの店舗でも高水準の接客を実現するために、オンライン・オフラインに関わらずすべての顧客接点の情報を一元管理し、いつでもどこでも誰でも取り出せる必要があるからだ。

 その実現のためにエルメスはBIダッシュボードを採用している。情報はリアルタイムに更新され、その参照だけでなく現場からの入力も可能にしている。さらにモバイルでの閲覧にも適用することで、最前線の店舗スタッフまでもがダッシュボードにアクセスし接客に活用することができる

 その背景には、「テクノロジーは人間の要素を置き換え効率化するものとして取り上げられるが、決して人間の要素のすべてを代替できるものではない。人間のキュレーション力に期待がかかるラグジュアリーブランドとして、人間の知性や愛を強化するものとして採用するべきである」という考えがある。

 フェイダー氏は最後に、DX推進は従業員がその目的を理解していることが最も重要であると語った。戦略や構想を高らかに語るだけではなく、テクノロジーの導入意図やそれに対する期待(顧客体験にどのような影響を与えたいのか)を明確に指し示し、実行するモチベーションまで高めること、ひいてはそのような企業文化を作り上げることが経営層の取り組むべきことなのであろう。

この記事はプレミアム記事(有料)です。ご利用にはMarkeZineプレミアムのご契約が必要です。

有料記事が読み放題!MarkeZineプレミアム

プレミアムサービス詳細はこちら

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラスをご契約の方は
・こちらから電子版(誌面)を閲覧できます。
・チームメンバーをユーザーとして登録することができます。
 ユーザー登録は管理者アカウントで手続きしてください。
 手続き方法の詳細はこちら

次のページ
顧客体験を支えるのは従業員体験、PPIHの考え方

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
グローバルの風向き、トレンドを知る。海外カンファレンスレポート連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

岡本 静華(オカモト シズカ)

電通デジタル トランスフォーメーション部門トランスフォーメーション事業部 マネージャーコマース会社の設立・経営後、2017年に電通デジタルに入社。顧客体験設計のプランニングを中心としたDXコンサルティング業務に従事。リアル店舗を保有する企業のDX戦略策定から、顧客視点・従業員視点に立脚した体験価値の...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2024/08/29 09:30 https://markezine.jp/article/detail/46507

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング