Googleの方針転換で「Cookieレス対応」は終わるのか?
MarkeZine編集部(以下、MZ):グーグルが7月22日に「3rd Party Cookieの廃止を撤回した」と発表しました。この件について、率直にどうお感じになりましたか?
杉原:突然の発表でしたから、やはり驚きました。何と言っても、方針が180度転換してしまいましたからね。私は朝早く起きてSNSの情報を収集しているのですが、このニュースが目に飛び込んできたんです。びっくりしました。すぐにXでこの件についてつぶやいたのですが、過去最高のインプレッションに達して、改めてこの件に関心を持つ人の多さにも驚かされました。
MZ:広告業界の反応はいかがですか。
杉原:広告主やパブリッシャーでは「これで3rd Party Cookieはなくならないんだ、良かった良かった」「Cookieレス対応はしなくて良いんだ」と安堵している方が多いようです。一方、Cookieに代わる代替技術の開発に投資してきたアドテクベンダーは怒りに近い困惑状態という感じでしょうか。いずれにせよ、「ここ数年、業界を挙げて取り組んでいた3rd Party Cookie廃止への対応は終息に向かう」と感じた方が多かったようです。ですが、それはとんでもない思い違いです。というより、その誤解は非常にまずい状況です。
MZ:どういうことでしょうか。
杉原:そもそもの点から言いますと、まず「3rd Party Cookieが廃止」になるわけではありません。3rd Party Cookieは今後も機能としては残ります。ここ数年業界を賑わせてきた「3rd Party Cookieレス」について正確に言えば、「Web広告に3rd Party Cookieを使おうとするとブロックされる」ということで、3rd Party Cookieそのものが廃止されるわけではないんです。そのため私は「3rd Party Cookieのサポート廃止」と呼んでいます。
今回のグーグルの発表は、「『3rd Party Cookieのサポート廃止』を取りやめる」というものです。取りやめてどうするのかといえば、「ユーザーが選択できる新しいアプローチを提案する」と発表しています。問題はここです。その「ユーザーが選択できる新しいアプローチ」とは何なのか、それがわからないのです。
繰り返しますが、「3rd Party Cookieのサポート廃止」が取りやめになったからといって、ここ数年の状況が変わるわけではありません。私はむしろ「これまで同様スピードを落とさずに、3rd Party Cookieが広告利用に使えなくなった時の準備はしてください」と訴えたいと思っています。
Cookie規制が広告業界に与える影響
MZ:「ユーザーが選択できる新しいアプローチ」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
杉原:それについては私も含めて誰もわかりません。ですが、これまでの経緯と業界の取り組みを振り返ることで1つの仮説を立てることはできると思います。まずはCookieという技術について押さえておきましょう。
CookieとはWebブラウザに保存される小さなユーザー情報です。Cookieがあることで、ログイン情報の入力が不要で過去に訪問したWebサイトで記事を読んだりスムーズに買い物をしたりできます。このようにCookieはユーザーの利便性を高めるもので、広告のために作られた技術ではありません。ところがWeb広告が出始めた時「Cookieを活用できるのでは」ということで広告配信に使い始めるようになりました。
Cookieにも種類があります。1st Party Cookieは、ユーザーが訪問したWebサイト内だけで使われるもので、先ほど説明したようにログイン情報の入力が不要だったり、過去にそのWebサイトで閲覧した商品を表示させたりといった使われ方をします。
一方3rd Party Cookieは「複数のWebサイトをまたいで利用できるCookie」です。Cookieに記録された閲覧履歴などを基にユーザーの興味関心に適した広告を配信したり、一度見た商品の広告を何度も表示させたりということで、これがプライバシー保護に抵触すると叫ばれるようになりました。そこで3rd Party Cookieの広告利用を無効にしようという動きがここ何年か続いています。
この3rd Party Cookieが広告に使えなくなると、パブリッシャーも広告主も非常に困ったことになります。なぜなら年代や興味関心に紐づいたターゲティングもできなければ、リターゲティング広告もできなくなりますし、何よりコンバージョン計測も困難になるからです。大海原にGPSも無線も魚探もない状態で船を出すようなものですね。