テレビデバイス全体の約2割 年々増加するCTVの視聴時間
MarkeZine編集部(以下、MZ):現在、テレビデバイスでは、地上波やOTTコンテンツなど様々なコンテンツが視聴されるようになっています。そんなテレビデバイスの現在の活用状況や、CTV広告のポジションの変化について教えてください。
東野:当社では、地上波テレビとCTVの視聴データを双方同一パネルで取得しています。それらのデータを見ると、CTVの利用者数および視聴時間は年々増加しています。2022年時点ではテレビデバイス全体の視聴時間のうちCTVが占める割合は約12%でしたが、2023年時点では約19%まで上昇しました(※)。
※CTVにおける配信視聴時間の割合は、インテージ「知るギャラリー」2022年5月31日公開記事を参照。CTV視聴世帯の割合は、REVISIOパネル2,000世帯を対象としたサーベイより。
東野:広告としてのポジションについては、企業によって捉え方が大きく異なります。CTV広告をテレビ広告の延長として捉える企業もいれば、あくまでもデジタル広告の延長として捉えている企業もいます。肌感としてはCTV広告をデジタル広告として捉えている企業のほうが多い印象があります。
MZ:KDDIでは現在、広告主として、テレビデバイスにどのような価値を見出していますか?
後舎:価値を感じている点は主に二つあります。一つ目は、「大画面でブランドメッセージを届けられる」点です。テレビの大画面を活用することで、視聴者の印象に残るコミュニケーションができます。
後舎:二つ目は、「共視聴」が期待できる点です。PCやスマートフォンのデバイスは、個人利用が主であるのに対し、テレビは複数人で同時に視聴されることが多いです。そのため、1回の広告で複数人にメッセージを届けられるほか、広告が会話のきっかけになることも想定できます。
一方で、地上波のテレビCMでは広告効果の指標として基本的にはGRPを活用するのに対して、CTV広告では、インプレッションで表すことが多いと思います。テレビデバイス全体で広告配信を最適化するには、テレビCMとCTV広告の各効果測定を統一した指標で行うことがやはり必要だと感じておりました。
CTV広告が抱える四つの問題点とは?
松野:テレビデバイスを活用しながらもインターネット広告のメディアという側面も持つCTV広告ですが、後舎様がお話されたことに加えて大きく四つの課題を抱えていると感じています。
松野:一つ目は「モーメント」に関する課題です。地上波では、放映されるコンテンツの内容と連動させてテレビCMを放映できます。それに対して、CTV広告では、「人」をターゲットに配信を行うため、視聴コンテンツと広告の関連性が薄くなる傾向があります。
二つ目は「オンターゲット率」の問題です。CTV広告は動画配信サービスにログインしているIDや広告IDを起点にターゲティングを行います。そのため、子どもが親のアカウントを使って番組を視聴しているにも関わらず、親の年齢や興味関心として判別されてしまうといったことが多発しています。
実際、フリークアウトで過去に行ったYouTubeのCTV広告配信では、ビジネスパーソンをターゲティングしていたにも関わらず、7割以上が子ども向けコンテンツに配信されてしまっていたという事例もあります。
三つ目は「ブランドセーフティ」の問題です。特にユーザー投稿型のメディアでは、広告がブランド毀損につながるようなコンテンツと一緒に表示されてしまうリスクがあります。
四つ目は「ながら視聴」の問題です。YouTubeをはじめとするUGC型の動画配信サービスでは、1時間超の長尺動画が多いほか、見たいコンテンツが終わると自動で次のコンテンツが再生される仕様があります。このような状況下では、ユーザーはテレビ画面を注視していないといったケースや、そもそもテレビの前にいないことも多々あります。
ターゲットユーザーが実際に見ていないのにもかかわらず、管理画面ではimpとして計上されてしまうといった問題が発生しており、広告の無駄打ちが起こっています。
テレビデバイス全体での広告効果を最適化
MZ:これらの課題の解決に向けてフリークアウトでは、「TVCM3.0」という考え方を提唱していると聞きました。この考え方について教えてください。
松野:TVCM3.0は、地上波テレビCMとCTV広告で統一の指標を設け、テレビデバイス全体での広告効果の最適化を図る考え方です。この統一された指標を活用することで、広告主にとって本質的な指標を用いてPDCAサイクルを回すことを目指します。
後舎:当社では、この「TVCM3.0」の考え方に共感し、テレビCMとCTV広告の共通指標としては、REVISIO様が提供するA-UR(Attention unique reach)を活用しています。
A-URは、REVISIO様が持つ認識技術で独自パネルが「テレビデバイスの画面を注視しているか」を測り、広告1回あたりの接触した人数の割合を示す評価指標です。当社では地上波の評価指標としては、2019年よりA-URを活用していました。これをCTV広告にも適用することで、地上波もCTVも同じ基準で広告効果を測定することが可能な状況でした。
後舎:また、従来テレビCMの効果測定で活用されるGRPでは、実際にCMが見られたかまでは追えませんが、A-URの活用によりこの部分も可視化できるようになっています。
“地上波”と“CTV”を掛け合わせてA-URを最大化
MZ:TVCM3.0の考え方を踏まえて、KDDIが実施したプロモーションについて教えてください。
後舎:当社では、2023年9月に「auマネ活プラン」というサービスをローンチしました。新しいサービスということもあり、効率的なサービス認知の拡大が必要でしたので、テレビデバイスを活用した広告配信を行うことにしました。
後舎:当プロモーションの注力ターゲットはMF1層で、CTV広告の配信先には、「GP」を用いたYouTubeでの配信選定。一方、地上波テレビでは、注視度が最も高い時間帯を中心にCM放映のプランニングを行いました。これにより、A-URの最大化を目指しました。
MZ:REVISIOとフリークアウトは具体的にどのような支援を行ったのでしょうか?
東野:当社は、出稿前については、地上波テレビCMの効果的なプランニングのサポートを担当。また、出稿後には、地上波とCTVの統合の振り返りを行いました。
具体的には、過去のA-URデータを基に各時間帯における視聴者の注視度を可視化したヒートマップを作成。当社のパネルから、通常KDDI様のテレビCMを見ていない視聴者層がよく見ているテレビ枠に出稿するようにし、彼らからの注視獲得を目指しました。
事後の統合振り返りについては、地上波とCTVそれぞれの予算と獲得したA-URからA-UR獲得単価を集計。地上波とCTVのどちらの出稿効率が良かったのかを評価しました。
松野:フリークアウトでは、CTV広告の配信をサポートしました。当社のグループ会社が提供する「GP」を用いてYouTubeのコンテクスチュアルターゲティングを実施。注視されにくいコンテンツや、ブランド毀損につながるコンテンツへの広告配信を効率的に排除することで、A-UR向上を図りました。
具体的には、YouTube上にある動画の説明文、タイトル、映像内容を解析し、ながら見や子ども視聴、ブランド毀損に該当する動画を抽出。最終的には数万にのぼる動画コンテンツを広告の配信対象から除外しました。
松野:GPでは、独自の高度な解析技術によって動画内の会話内容まで解析できます。広告の注視につながりにくいコンテンツでの無駄打ち配信を防ぐだけでなく、不適切な発言を含む動画を配信先から除外することで、ブランド毀損の防止も目指しました。従来のIDベースのターゲティングで課題となっていたモーメントの違いやターゲットリーチ率の低さに対し、GPは人ではなくコンテンツ自体を重視するアプローチを取っているため、課題解決につながります。
YouTube・CTV経由のMF1への注視リーチ効率は「地上波CMの3.6倍」に
MZ:プロモーションによる成果をお聞かせください。
後舎:今回のプロモーションでは、予算配分を地上波テレビに95%、YouTubeに5%の割合で実施しました。その結果、ターゲットであるMF1の注視リーチが、地上波テレビが82%、YouTubeが18%となりました。つまり、予算比でYouTubeのほうが3.6倍の注視リーチを取れたことになります。
後舎:加えて、地上波だけではリーチできない層に対しても、メッセージを届けられました。今回、YouTube単独で+約7%のインクリメンタルリーチを獲得できたため、5%の投資で7%の注視リーチ拡大が得られたと考えられます。
これらの結果を踏まえて、地上波テレビだけに広告出稿を行うよりも、YouTubeを組み合わせたほうがより効率的に注視リーチが取れることが判明しました。
MZ:地上波テレビCMとCTV広告を統一指標で進めるとなると、他部署との連携が必須になると思います。調整を行う際に意識すべき点を教えてください。
後舎:大きく二つあります。一つ目は、お客様視点でのプランニングです。お客様は日頃から、媒体の違いなどを意識することなく、様々な情報を横断的に取得しています。そのため、テレビやインターネットといった媒体の違いよりも、お客様視点から見た価値や体験に焦点を当ててプランニングを行うことが重要だと思います。
二つ目が、スモールスタートで実績を出すということです。地上波のテレビCMとCTV広告を管轄している部署が異なるケースもあるかと思います。そのため、たとえ「TVCM3.0」の考え方に賛同しても他部署からの理解・協力が得られないといったことも起こり得るでしょう。
そこで、まずは小さな領域で成果を出し、その成果を基に他部署へ説明することで、少しずつでも理解を得ていくことが重要になると思っています。
当社でも、小さな成功のデータを基に「地上波とCTVを最適にプランニングすればA-URが最も効率的に高まる」という事実を積み上げ、地道に伝えるようにしてきました。
TVCM3.0を普及させるためには?
MZ:最後に、各社における今後の展望をお聞かせください。
後舎:テレビデバイスでのメディアプランニングの高度化に向けて、「テレビとCTVの最適な予算配分」「対象メディアの拡大」「オンターゲット率の向上」「最適なクリエイティブフォーマットの探索」の四つのテーマを検証していきたいと考えています。
これらのテーマを総合的に検証することで、テレビの大画面を通じた訴求力を最大化させるべく、地上波でのリーチ力とCTVのパーソナライズ性、それぞれの特徴を活かした最適な組み合わせを発見したいです。
東野:「TVCM3.0」の考え方は多くの企業が理解を示してくれていますが、実践可能な体制が整っている企業はまだ一部に限られています。A-URをより効果的に活用していただけるよう、REVISIOとして今後も継続的に情報を発信していきたいです。
また、検証ができていないメディアもまだまだ存在しています。そのため、パネルの拡大や配信方法の工夫などを行い、対象メディアを今後拡大していけるようにしたいです。
松野:「TVCM3.0」の普及を目指し、地道な検証と実績の公表を続け、プロダクトをブラッシュアップしていくことが重要だと考えています。
今回は地上波テレビ×YouTubeの話がメインとなりましたが、当社では、他のメディアに対しても同様に支援が可能です。今後、各広告媒体が抱えている様々な課題に対して、当社のノウハウや独自のテクノロジーを用いてソリューションを拡充していきたいと思います。
フリークアウトが地上波CMとCTV広告の指標統一化をサポート
フリークアウトではCTV広告の配信だけではなく、地上波CMとCTV広告の指標統一化やCTV広告の最適予算探索などをサポートしております。本記事でご興味をお持ちになられました際には、以下までお問い合わせください。
お問い合わせ先:red-sales@fout.jp