市内50社が賛同する和歌山市の「FAVTOWN」プロジェクト
MarkeZine編集部:「re:connect」の取り組みの一例として、和歌山市で展開している「FAVTOWN(ファボタウン)」プロジェクトについて詳しく教えてください。
岡村:「FAVTOWN」は2023年2月に和歌山市でスタートしたプロジェクトで、2024年9月現在、県外の若年層を中心に会員が約3,500人規模まで拡大しています。コンセプトは「離れていても、ずっとお気に入りのまち」。和歌山市を出ていく出身者との関係をつなぎ、地元を応援したいと思ってもらえるような動機づけを行っています。
具体的には、ふるさとファンメディア『FAVTOWN wakayama』を立ち上げた上で、「はたちのつどい」「和歌山市フェス」といったオフラインでのイベントも定期的に開催中です。デジタルとは関係のないところを含め、全体のコミュニティ設計を担い、関係人口の創出・増加に寄与しています。
また、「FAVTOWN」は行政の予算やリソースに依存しない持続可能な体制構築を目指し、50社以上の地元企業に賛同いただいていることも特徴ですね。
MarkeZine編集部:50社もの企業が賛同する理由として、企業側のメリットもあるのでしょうか?
岡村:はい。「FAVTOWN wakayama」内に協賛企業のページを設けてPRしていますが、それだけには留まりません。たとえば有形商材をお持ちの企業様の場合は、和歌山市を出て一人暮らしを始める若者に向け、「応援商品」として物品をプレゼントしていただいています。通常のサンプリングとは異なり、「地元の温かさを感じて泣きそう」といった非常にポジティブな利用者の声が寄せられていますね。無形商材の場合でも「FAVTOWN」を通じて若年層との関係が生まれ、「応援する企業」として認知されることによって、採用活動や顧客開拓につながる効果を生んでいます。
売上では測れない。目標設定、効果測定の難しさ
MarkeZine編集部:「re:connect」全体を通して、苦労することや障壁はありましたか?
岡村:まず、目標設定の難しさがあります。一般企業のマーケティングでは売上や利益の最大化がゴールとなりますが、行政のプロジェクトでは公益性・公共性の担保が求められます。「地域住民の満足度」や「社会的インパクト」といった計測の難しい指標が定められていることもありますね。
MarkeZine編集部:かなり定性的で、目標を達成できたかどうか判断することも難しそうです。
岡村:私たちから指標とすべき数値を提案し、その数値を達成することで地域全体の利益にどう還元できるのかを説明しています。例として、「FAVTOWN」のゴールの1つに「移住」がありますが、いきなり移住者数の増加につなげるのは難しいですよね。そこで「会員登録」「アンケート回答数」「施策の反応率」などの独自指標を設け、ユーザーのアクティブ度を可視化しています。施策に好反応を示すファンを増やすことが、将来的に移住や就職などのアクションにつながっていくと考えています。
MarkeZine編集部:自治体と伴走する大変さもあるのでしょうか。
岡村:そうですね、半年から1年弱、村に住み込みで常駐していたプロジェクトもありました。大変ではありますが、地域に寄り添い一緒に働くことによって、お互いの理解も深まり、伴走しやすくなっていきます。結局、現地に赴いて泥臭く活動していくことが、自治体の方々に一番喜んでもらえるのです。
MarkeZine編集部:プロジェクト成功の裏には、現地での地道な活動があったのですね。大変な中でも、やりがいを感じる瞬間はあるのでしょうか。
岡村:「地域の仲間」として認めてもらえるタイミングです。最初は「大阪から来たIT企業」という見られ方をされますが、だんだんと信頼関係を築いていくうちに、あれもこれもと、どんどん相談が発生する時がきます。その瞬間、ついに認めてもらえたんだなと嬉しく感じますね。