今、マーケターが直面する「三つの大きなシフト」
まず触れておきたいのは、2024年に起きているという“三つの大きなシフト”だ。HubSpotでマーケティング製品のゼネラルマネージャーを務めるニコラス・ホーランド氏が登壇したセッション「Building for the Marketer in 2024 and Beyond(2024年とその先のマーケターに求められる戦略構築)」では、次のように説明された。
1.オーディエンスにリーチするのが難しくなった
Gartnerの調査によると、AIにより2026年までに検索ボリュームは25%減少する見込み。これはSearch GPTやAI Overviewなどの影響と見られる。また、SNSにおいてもLinkedInのリーチが約6分の1になり、Xのリーチが約7分の5に、Instagramはインプレッションが50%減となり、こちらでの接触も以前よりも難しくなった。
2.AIがマーケターの役割を変えている
AIはマーケターの仕事を奪うのではなく、究極のマーケティングアシスタントになる。テクノロジーを拒否する人の仕事は奪われるだろう。
3.カスタマージャーニーがこれまで以上に複雑かつ断片的なものになり、計測が難しくなっている
課題は「もっとデータを集めなければ」から「どうやってこの大量のデータを使おう」に変化。マーケターとして見込み客に接触するチャネルすべてがカスタマージャーニーの一部に数えられる。
AI活用を踏まえた「2024年のプレイブック」
では、今後どのように対応すべきか? ホーランド氏は、マーケティングの普遍的な鉄則を「注目を集めること」「関係性を築くこと」「売上につなげること」とシンプルに説明し、2024年のプレイブックを次のように示した。
1.「ブレイクスルーコンテンツ」により、オーディエンスプールを築く
SEOは、役に立つコンテンツを多く公開することから、「ブレイクスルーコンテンツ(=競争力のあるコンテンツ)」を集中して作ることへの変化が必要だと言う。同氏によると、日々のトラフィックの中には「追うにはリスクの高い、単刀直入なクエリ(Divest)」「正解が一つとは限らない複雑なクエリ(Differentiate)」があり、これらに対応するコンテンツへの投資は避けるべきだ。大きく投資すべきは「自社の製品やサービスの購買サインを感知できるクエリ(Double down)」であり、この領域で画期的なコンテンツを作ることを強く勧めている。
SNSでの戦略も、既存コンテンツをSNSで共有するのではなく、最初からSNS用に最適化されたコンテンツ(ネイティブソーシャルコンテンツ)を作成することが重要になる。また、強調されていたのは「動画」の活用だ。動画はたまに作るだけのものという認識を捨て、「動画ファースト」なマーケティングを行うべきだと言う。
2.AIを活用したキャンペーンでリードを創出する
キーノートでも語られたが、マーケターがすべてのことをやるのではなく、 AIがコンテンツを作り、マーケターは創造性や戦略的思考を活かして「キュレーター」としての役割を果たす(=精選する)ことが重要だと言う。また、一つのマーケティングチャネルに特化した戦術(たとえばメールマーケティング)への依存を脱し、複数チャネルでのキャンペーン展開を基礎とするべきとした。顧客がこれまでになく多様になっている中、チャネルの多様化も不可欠なのだと言う。
「今後のマーケターはコンテンツを『良いコンテンツ』から『素晴らしいコンテンツ』に変えるのが仕事。現時点ではAIはバブル的な状態にあり、みんながAIの活用方法を試行錯誤している状態。これからAIはもっともっと良くなっていく」(ホーランド氏)
3.アクションにつなげられるデータを元に、見込み客を顧客に転換する
ファーストパーティーデータ、サードパーティーデータなど、各データが断絶されたままの活用から、統合されたデータの活用へ。ホーランド氏は「個別のウェブサイト上だけではなく、カスタマージャーニー全体で何が起こっているのか理解することを重要視すべき」と述べる。
また同時に、データ分析とレポート作成のすべてをマーケターが行うのではなく、AIがデータ分析をし、マーケターが示唆を得るようにすること、そしてセグメントごとのパーソナライゼーションから、(本来の)1対1のパーソナライゼーションへと変化させるべきだと語った。AIによるパーソナライゼーション機能を使うことで、CVRが75%以上増加することもありえると言う。
このように、AIがマーケターの仕事を助けることは、なんとなく理解している方は多いだろう。では、マーケティング組織はどのようにAIを導入し、活用を広げるべきなのか。