利他の精神と資本主義の根本的な理念
「Be Happy, Make Happy」
(まず、あなた自身が幸せであること。そして、周囲の人を幸せにすること)
これは、振り返ってみると、「資本主義の精神」の核心だといえる。たとえば、マックス・ヴェーバーはその代表作『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(岩波文庫)』(岩波書店)の後半で、述べている。
「われわれはすべてのキリスト者に、できるかぎり利得するとともに、できるかぎり節約することを勧めねばならない。が、これは、結果において、富裕になることを意味する。」(これにつづいて「できるかぎり利得するとともに、できるかぎり節約する」者は、また恩恵を増し加えられて天国に宝を積むために、「できるかぎり他に与え」ねばならぬ、という勧告が記されている)。」
出典:『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(岩波文庫)』マックス・ヴェーバー 著、大塚 久雄 著、岩波書店、1989年1月
できる限り利得(利益)を獲得し、できる限り節約し、神(他者)の王国のために「天国に宝を積む」。そして、できる限り「他に与え」なければならない。自らの贅沢のためではなく、倹約を心掛け、できる限り「他者」のために与える。これが、資本主義を駆動してきた「精神」だ。
そもそも、「他者」に良いと思ってもらわなければ、自らの評価を上げることはできない。「他者」に良いと思ってもらい受け入れてもらってはじめて、モノやサービスが売れる。他者のために全力を尽くす。他者の幸せを目的に生きる。他者に「与える人=Giver」こそが、成功する秘訣といえる。
「成功するギバーは、「自己犠牲」ではなく、「他者志向性」をもっている。他者志向性とは、たとえばチームで仕事をするときに、自分の取り分を心配するのではなく、みんなの幸せのために高い成果を出す、そこに目的を設定するということだ。」
出典:『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』アダム・グラント 著、三笠書房、2014年1月
我々は、相互依存・相互扶助の世界に生きている。他者依存であり、他者と相互に助け合って生きている。
世界恐慌と第二次世界大戦の荒廃のあとで、新しい世界秩序構築の理念になったのは、ドイツの哲学者、イマニュエル・カントだった。カントは『永遠平和のために』(岩波書店)で、国際連合の理論的根拠を論じた。国連構築の根拠は、カントの以下のような理念に求められていた。
「人間および一般にすべての理性的存在者は、目的自体として存在し、誰かの意志の任意な使用のための手段としてのみ存在するのでなく、自己自身に対する行為においても、また他のすべての理性的存在者に対する行為においても、常に同時に目的として見られねばならない」
出典:『プロレゴーメナ 人倫の形而上学の基礎づけ』カント 著、中央公論新社、2005年3月
これは、一般的に、「他者を手段としてのみならず、同時に目的として扱え」と表現される。いま、ウクライナや中東で戦争が起こっている。それぞれ譲れない主張や大国のエゴがあるのだと思う。だが、そのような自己主張や自己中心的なエゴからは、平和も繁栄も生まれない。他国(他者)の領土を獲得の手段として侵略する。自らの主張を押し付ける手段として相手(他者)に対峙する。そうではなくて、「他者」を同時に目的として扱い、他者のために全力を尽くす。他者の幸せを目的にする。そうしなければ、平和も経済的繁栄も永遠に訪れることはない。
他者のために全力を尽くす。他者の幸せを目的に生きる。ここに真実がある気がしてならない。ネット広告業界にいると、この真実に触れる。そんな至高の瞬きがある。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、難聴に苦しみ、晩年は、自分の耳で演奏を楽しむことはできなくなった。だが、彼は、曲を書き続けた。そして、彼は言った。
「人々のために、曲を書くときのほうが、そうでないときよりもずっと、美しい曲を書くことができる。」
出典:『美しい絶景と勇気のことば』パイインターナショナル、2017年6月
他者を目的とする、他者の幸せのために仕事をする、他者のために曲を書く。ここに真理があるように思えてならない。それが、我々に必要であり、ネット広告業界には、それがある。
ところで、会食した方のご令嬢は今、ネット広告代理店で働いていると聞いた。ちょっと嬉しい、いや、かなり嬉しいかもしれない。