世界大会には外務省までからんでくる
天候以外のリスクといえば、何といっても断トツにたいへんだったものとして、88年の昭和天皇の崩御をあげることができる。その年の夏以降、天皇陛下の体調は「いつ崩御されてもおかしくない状態」で数か月が経過した。たとえば、Xデーがゲームの前日だったらどうするか? 検討すべき基本的な問題は、2つある。「試合自体の実施の可否」と「TV放送」である。
「試合は実施」するが、TV放送は行われないケースがある。なぜなら、トヨタカップは国内戦ではなく、日本サッカー協会は主催ではなく主管、つまりゲームの開催を委ねられているからだ。前日に崩御された場合、日本テレビは放送を自粛するだろうが、ホスト放送局として、ゲームの中継放送を世界に対して行う責任はあるのだ。
この場合、ゲームは実施されるが、せめて両チームから哀悼の意を表してもらうために、1分間の黙とうをしてもらいたい、とゲーム前日のマネージャーズ・ミーティングで提案した。当然受け入れてくれるものと思っていたし、事実、南米側は2つ返事でOK。ところが、その年の欧州代表は、間の悪いことに、オランダのPSVアイントホーフェンだった。

オランダでは昭和天皇は戦争犯罪者であるため、PSVが哀悼の意を表したりすると、下手をすれば国に帰れないことになる。そこで、黙とうが済んでから入場することにした。トヨタカップくらいになると、対応を間違えると外交問題に発展する。冗談ではなく、筆者は外務省に事情説明に行かざるを得なかったことが何度かある。
リスク対応への2つのキモ
イベントプロデューサーの最大にして究極の役割は、リスクへの対応である。そのために必要なことは、2つ。1つは法的な権利関係を明確にしておくこと。今は故人となった大先輩に、駆け出しのころいわれた「プロデューサーは権利の近くに行くこと」という助言は一生忘れない。その後何度も「なるほど」と思わされたことがある。もう1つは、リスクマネジメントのマニュアルを準備しておくこと。
リスクマネジメントの具体的な対応としては3つの領域がある。第一に「リスクを読む」。弟二に「リスクを避ける、あるいは下げる」。第三に「リスクが現実化した場合(クライシス化)の対応」である。通常、マニュアルは第三への対応なので、正確にはクライシス・マニュアルと呼ぶべきだろう。できるプロデューサーは「リスクマネジメント」ができ、クライシス・マニュアルが書ける。
北京ではマニュアルが無駄だった、という事態を切に望む。