ユーザーの中心は10代~30代の女性
ユーザー属性についてはPCと異なり、女性が半数以上を占めるというのが共通の見解のようだ。書店で堂々と広げるのは憚られるようなものでも、携帯電話なら人目を気にせず読める、というのも女性に支持される理由のひとつだとする。1995年から電子ブック業界をリードし続けてきた株式会社パピレスの天谷氏は、「携帯電話で画像が扱えるようになってから、小説、ビジネス書、実用書、コミック、写真集など、幅広いジャンルでコンテンツを提供できるようになりました」と言う。
ユーザーには20代を中心に10代から30代までの女性が多く、「恋愛小説がよく出ていますね」とのこと。また、電子書店向けにプラットフォーム事業を展開するモバイルブック・ジェーピーの佐々木氏は、「夜読みたい、という人が5割を超える。モバイル特有のライフスタイルが業界全体の伸びにつながっていると言えます」と分析した。
このように携帯電話がモバイル電子ブックビジネスの幅を広げつつあるだけでなく、「コミックのカラー化」といった新しい動きも生み出しているという。「ここには2つの流れが存在します。1つは、もともとモノクロだったものをカラー化して提供するという流れ。もう1つは、もともとカラーで提供されているアニメをコミックに落とし込み、紙芝居形式でコマをつなげて提供するという流れです。コミックをアニメ感覚で読むユーザーが多いようです」(奥田氏)。「モノクロに比べて提供価格が高いのにも関わらず、売上上位を占めるのはカラー。それだけアニメの影響が大きいということでしょう」(林氏)。
課題を解決し市場成長のフェーズへ
後半、議論の焦点は今後のビジネス展開へと移り、海外進出への期待が述べられるとともに、電子ブックのフォーマットについて、共通の課題を抱えていることも明らかになった。天谷氏は「音楽のようにコンバートするだけでは完結できない難しさがあり、携帯電話へのコンテンツ展開においては、フォーマットの違いが1つのハードルとなっている」と指摘。各社とも、将来的にはワンソースで対応できるのが理想であるとする。
また、「権利関係についてもデジタル化に合った展開の仕方が必要では?」との岸原氏の問いに、奥田氏はプロモーションモデルの違いを例にあげ、「紙メディアの場合は出版社がプロモーションを行うのに対し、携帯コミックはサイト側が行うことになります。しかし、権利側の力が強いという構図は紙の時代と変わっておらず、収支面から見ると、ビジネスの下流側にそのしわ寄せが来ているのは事実。携帯電話としての新たな共存共栄の流通モデルを作り、さまざまな企業が参入しやすくすることで競争力を高め、業界全体を活性化していかならければならない」と説明。
補足する形で佐々木氏が、「古い業界体質を引きずっていてはダメ。出版社、流通、小売店とで新しい仕組みを作っていく必要があります」と述べた。数百億円規模のマーケットを安定的に成長させていくためには、こうした課題をクリアしつつ、各社が個性を出し、競争力を高め、マーケット全体の奥行きも幅も広げていく必要があるということだろう。最後に岸原氏は、モバイル電子ブックビジネスについて次のようにまとめ、業界全体の成長に大きな期待を込めた。
「新しい書籍流通のあり方を実現するプラットフォームが、ようやく追いついてきたという意味で、市場としては丁度立ち上がりの時期と言えるでしょう。今はまだ、ヘビーユーザーが中心となって市場を引っ張っており、特定のジャンルから広がってきているのが現状です。携帯の使い方が急速な変化を遂げるなかで、いかに次のジャンルを開拓していくか、これからが腕の見せ所です。今は同じ方向を向いているみなさんも来年はどうかわかりません。ここからぜひ、新しい文化を生み出していって欲しいと思います」。