企画段階の「そもそも」問題
道上:私はMarkeZine Dayというイベントでコンテンツ企画やオペレーションなど幅広く担当しています。猿人様のイベントマーケティング支援の実績や担当領域を教えていただけますか。
阿久津:私たち猿人はIT業界のクライアントを中心に、コンサルティングやイベントマーケティング、デジタルマーケティングなど幅広い領域でBtoBマーケティング支援を提供しています。「イベント」という観点で言うと、お客様のニーズに合わせて小規模なセミナーから企業のフラッグシップとなるような大型カンファレンスまで幅広くご支援しています。展示会も同様です。それぞれ、企画や集客、前後施策、リードマネジメント、ブランディングに至るまで、イベント制作の括りとらわれず包括的に支援をさせていただいています。
道上:今回は猿人様の知見だけでなく、御社が情報システム担当者300名に実施したアンケート結果も交えてイベント施策についてお話をうかがっていきます。まずはアンケート調査の概要を教えてください。
土谷:ユーザー側の行動として、インターネット上での情報収集の一般化が進んでいます。同時にBtoBマーケティングにおいてもデジタルの手法がどんどん進化しています。加えて、コロナ禍を経て、オンラインとリアルのハイブリット化が当たり前です。他方、コロナ禍の反動のせいか、イベントの需要は非常に高く、規模も大きくなり、回数も増えています。
この中で企業のマーケティング担当者は、デジタルを優先していくべきなのか?イベントに代表される対面施策を優先するべきなのか?悩みを抱えています。
加えて、イベントを企画するにしても、明確な根拠もなく感覚でイベント計画を立てていることが多いのも実情です。どのようにイベントを組み立てていけばいいか自信がなく、かといって成果は上げなければならない……。そんなマーケティング担当者の皆さんに、イベントプランをする際に少しでも役に立つ、プランの根拠となるような情報を提供したいと考えたのがきっかけです。
阿久津:そこで、情報システム、研究開発・設計部門、ITリーダー層という、ITツールを選定する担当者へwebアンケートを実施しました。どのようなチャネルで情報を収集しているか、イベントへ参加する目的、登録の決め手、リアル開催で行ってほしい要素などを聞いています。
道上:ありがとうございます。私たちも探りながらイベントを企画しているので、担当者の方の悩みに共感します。ちなみに猿人様に寄せられる相談で、多くの企業に共通するものはありますか?
土谷:問い合わせ内容は大きく分けて2つのパターンがあります。1つは、「イベントに出展したい・開催したい」という明確な要望があるパターン。もう1つは、「出したい成果はあるが、何をすべきかわからない」という、より上流からの相談です。
猿人が実施した企業のIT担当者へのアンケート調査では、「新しいITツールを選定・導入検討する際、最も利用する情報収集手段」として、「情報メディア」(48.0%)に次いで、「ITツール・サービスを提供する企業主催のイベント」(23.1%)と「イベント会社・メディアなどが主催するイベント」(21.5%)が上位に挙がりました。デジタル化が進む中でも、実際に担当者とFace to Faceで情報収集できるオフラインイベントのニーズが高いことがわかっています。
しかし、いざイベントを企画するとなると「何を目的とするのか」「誰をターゲットにするのか」「いつ、どのくらいの規模で開催するのか」といった、イベントが求める成果や全体像が明確になっておらず、開催すること自体が目的化してしまっているケースが多く見られます。とても当たり前のことではありますが、私たちはこれらのポイントを整理しながらお客様に企画をご提案しています。
阿久津:イベントの実施が決まっている場合だと「いつ頃開催するのがいいのか」「どの会場を選べばいいのか」「どう集客すればいいのか」「どのようなコンテンツで構成すればいいのか」といった悩みを持つ担当者様が多いですね。
土谷:たとえば「いつ頃開催するのがいいのか」という点について、アンケート調査によると、イベントに参加しやすい開催時期は「こだわりはない」(55.6%)が最も高いという結果でした。一方で参加の決め手となるのは「テーマ」という結果も出ています。開催時期については、競合他社の動向などの懸念もありますが、「自社がお客様にとってもっとも魅力的なテーマとコンテンツを提供できるタイミングが、最も適した開催時期」と言えると思います。
有名人のゲスト登壇は有効?
道上:とはいえ、魅力的なコンテンツ作りは課題の1つだと思います。芸能人やスポーツ選手などの著名人に登壇してもらうセッションは様々な業界で企画されますが、これは有効だとお考えですか?
阿久津:コロナ禍の途中、オンラインイベントが乱立し始めたあたりから、集客に苦戦する企業が増えたタイミングがあり、それ以降、著名人を呼びたいという要望が増え続けています。しかし、ただ闇雲に著名人を呼べば良いかと言うと、そうではないと考えています。たとえば、AI関連のソリューションの企業様であれば、アカデミックな視点からAIの未来を語れる教授など、イベントのテーマに合致した人選を提案することが多いです。
土谷:アンケート結果を見ると、大型イベントの参加目的は「業界の最新動向を得られるから」(81.5%)が圧倒的に高く、登録する決め手となるのも「開催テーマ」(79.6%)が大多数です。つまり、「著名人が出るから行こう」という動機は低く、あくまで「イベントの内容」で参加を決めている方が多いのが実態です。
一方で、おもしろい結果も出ています。過去に大型イベントに参加して「よかった」と思ったコンテンツを尋ねると、「有識者やタレントによる特別講演」(24.1%)が最も高いんです。「業界の最新動向を聞きたいから」と参加はするけれど、著名人などのゲスト講演はやはり満足感につながっていることがうかがえます。
来場目的になる講演、満足度を高める講演など狙いを分けて企画することが大切だと感じます。
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「どこかで聞いた……」を防ぐチューニング方法とは?
道上:どうしてもリーダーや話題の企業は限られているので、他のイベントと登壇者が重複するケースが出てきます。聴講者が「それ、どこかで聞いたな……」とならず、自社らしいイベントを作るために心がけていることはありますか?
阿久津:特に著名人や外部有識者に依頼する場合、講演できるテーマや内容がある程度決まっています。個々のイベントのテーマに合わせてゼロから講演内容を用意いただくといったことや講演テーマを大幅にカスタマイズしてもらうのは難しいのが実状です。このため、弊社では、可能な範囲でテーマに沿ったエッセンスを加えていただけるようにお願いをしています。特に依頼のタイミングで来場者属性やテーマ、講演タイトルと概要の案をきちんと用意しておくとマッチ度は大きく上がると思います。
土谷:著名な方に登壇してもらう場合は、事前ブリーフィングができないケースも多いことは留意しておいたほうがいいかもしれません。イベントのテーマや参加者の属性、期待される講演内容など、「最低限ここは押さえてほしい」という情報を伝えておくことが基本となります。
集客ターゲットに合わせたメディア活用が不可欠
道上:企画と並んで頭を悩ませるものが集客です。私たちもいろいろ工夫をしていますが、猿人様はどのような集客支援をされていますか?
阿久津:猿人ではクライアントのハウスリストを活用したメール配信に加え、メディアやデジタル広告を活用した集客支援を行っています。たとえば、金融業界の顧客が多い場合には金融業界の専門誌やWebメディアを選定して提案しています。さらに注力したいソリューションや分野がある場合には、その業界に合致したメディアへの掲載も提案します。ターゲットの特性に合わせ、リーチしやすい媒体を選定することが重要ですね。
道上:近年はSNS広告の活用も広がっていますが、猿人様ではいかがでしょうか?
阿久津:もちろん、SNS広告やYouTube広告なども活用しています。ただ、認知獲得としての活用がメインであり、登録獲得という目的では、さらなる打ち手として、動画広告やオフラインも考えることが多いですね。
土谷:アンケート結果では、大型イベントの認知経路は「DM、手紙」(77.8%)、「情報メディア」(63.0%)が上位を占めており、まさに実態に沿った結果と言えます。一方、「デジタル広告」「社内からの紹介・口コミ」(いずれも20.4%)「ソーシャルメディア」(18.5%)はまだまだ限定的です。しかし、普段の情報接触の頻度を考えると、この領域はまだまだ伸びしろがあると感じます。
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イベント前・中・後の体験設計が重要
道上:個人的な感覚ですが、近年イベントの体験設計が複雑化している印象があります。単純に来場して聴講して終わり以上のものを求められているといいますか。この点はいかがお考えですか?
土谷:オンラインイベントが広く普及し、多くのビジネスパーソンが「会場に行けなかったとしても後日オンライン視聴はできることが前提」と捉えるようになりました。一方で、アンケート結果では大型イベントへの参加目的として「ITツールの担当者から直接サービス説明を受けたり、質問できるから」(50.0%)、「ITツールを直接触ったり、体験することができるから」(44.4%)と、対面形式のリアルイベントならではの体験を期待する声が目立っています。
ある意味オンラインは「押さえ」として捉え、対面形式のリアルイベントでは開催企業側と来場者側の双方で「直接コミュニケーションを取りたい」という要望が前面に出ていると感じます。
阿久津:現在はさらに、イベント後の体験をいかに作っていくかも重要だと感じます。講演資料のダウンロード提供やオンデマンド配信は今や当たり前。さらにどのようなコミュニケーションができるか、企画段階から打ち手を考えておく必要があります
土谷:弊社のお客様では、講演を事後レポート記事にしてオウンドメディアや外部メディアに掲載したり、動画を配信したりといった二次活用をしたいと考えるお客様が多いです。イベントコンテンツを可能な限り流用するのは効率が良いと捉えていますが、MarkeZineさんはどのようにお考えですか?
道上:「イベントをやって終わりにしない」ための事後コミュニケーションは必要ですし、多彩になっていくと思います。
チャネルによるウケるものの違いという観点では、講演の場合は、業界のリーダーや企業など「誰」が話しているかが影響していると感じます。一方、記事は内容が充実していれば読まれる記事になります。たとえば、「難しい」などの感想が多かった講演の内容を丁寧に噛み砕いたレポート記事にすると、「勉強になる」と好評になることもあります。
私たちはテキスト記事が主戦場なのでこのような違いがありますが、動画が強いメディアさんではまた異なるコンテンツ化ができると思います。講演の特徴に合わせた流用が可能なのではないでしょうか。
土谷:たしかに、イベントにおけるソートリーダーシップは重要な要素ですし、事後も単にコンテンツを流用するわけではなく、レポート記事化する際にも工夫が必要というのは、メディア編集ならでは視点ですね。今後の参考にさせていただきます(笑)!
企画から運営まで一貫したサポート体制
道上:最後にイベント担当者様へアドバイスやメッセージをいただけますか。
阿久津:イベント施策は企業様にとって大きな投資となります。だからこそ、最大限の効果を得られるように、企画から集客、当日の運営、事後フォローまで、あらゆる面を考慮する必要があります。猿人では、イベントの規模や目的に合わせて、必要なサポートをワンストップで提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。
土谷:「イベントの企画や運営は行うが、目的や戦略設計についてはまずそちらで決めてください」というスタンスのイベント会社も少なくありません。私たちは、「そもそもイベントを開催することが適切なのか」といった根本的な部分から一緒に考えてご提案できることが強みです。
そして何よりも、イベントの成功には、綿密なプランニングはもちろんのこと、当日の運営ノウハウや、不測の事態への対応力、つまり泥臭い「現場力」も必要不可欠です。猿人は、数多くのイベントを手掛けてきた経験と実績があるので、安心してお声がけしてもらえればと思います。
道上:本日はありがとうございました。
情報システム担当者300名に聞いた、参加したいイベントとは?
記事内でも紹介している、情報システム担当者に行った調査結果を実際にご確認いただけます。ぜひ、イベント企画の立案にお役立てください。