IDの整備は、AI普及のための必要コスト
有園:重ねて確認したいのは、AIが普及する世界にはIDが必要だということです。なぜなら、人間とAIの区別がつかなくなると、人間性の証明が必要だから。AIが普及した世界を作るためには、認証可能なIDを配らないといけない。シリコンバレーの人たちは、そのために莫大な資金を使っている。AI普及のための必要コストだということですね。
牧野:このプロジェクトの必要性や価値を信じている人たちが出資してくれています。
有園:事業というよりは、グローバルで賛同者を増やしていくプロジェクトとして進めているのですね。
牧野:このプロジェクトは、Web3の理念である分散化の考え方に基づいて設計されています。既存のIDと異なり、企業がIDを独占することはありません。また、虹彩コードも元々当社のサーバに入っていましたが、現在は大学や研究機関と提携し、そのサーバに分散しようとしています。Web2.0のサービスは、企業がすべてのデータを抱えていることが課題でしたが、それを解決するインフラにもなるのです。
有園:世界中の情報を集中管理する方法は、Web2.0の時代には有効でしたが、企業が儲けることにつながり、結果として自社に利する事業になっていきます。おそらくアルトマン氏は、人類が次のフェーズに行くためには、今の資本主義の仕組みと完全に分離したところでIDを普及させないといけないと見抜いているんだと思います。
次のフェーズとは、ユニバーサルベーシックインカムが実現する世界。そのための基盤を、企業の論理から離れた形で作ろうとしているのですね。
デジタル空間に秩序をもたらし、社会インフラへ
牧野:Googleの検索エンジンも、世の中に必要だから生まれてきました。世の中が次のフェーズに行くときには、新しいインフラが必要です。そのような規模の議論は近年あまりありませんでしたが、ついに新しいフェーズのプロジェクトが出てきたと思っています。
有園:遡ると、端末が一般家庭に普及して、インターネットが普及して、Googleが出てきて、SNSが広まって……。そういった変化がWeb1.0から2.0へと移り変わる中で起きました。それらを経て、これからは世界中にIDが普及しないと、次のフェーズへ移れないと思います。
牧野:デジタル空間は非常に大きく変化してきました。これからはその変化がさらに進み、デジタル空間がより広がっていく。そこには、秩序がないといけないと思います。デジタル空間を社会インフラとして使えるようにするために、個人のIDを認証できる技術が必要です。
有園:そうなれば、これまでハードルが高かった様々なプロジェクトや金融サービスなども動き出しますね。期待したいです。本日はありがとうございました。