コロナ禍を経て、再び盛り上がりを見せるインバウンド市場
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、自己紹介をお願いします。
丸木:私たちマイクロアドは、データマーケティング事業や、台湾支社を中心とした中華圏で海外コンサルティング事業を展開しております。私は2016年からMicroAd Taiwanの代表を務め、海外事業責任者として事業統括を担っています。
石坂:マイクロアド本社の海外事業本部 マーケットコネクト部で部長を務めています。私たちマーケットコネクト部は、外部のパートナー企業とアライアンスを組み、日本企業にとって有益なプロダクトを開発している部署です。
アゴス:香港でデータプラットフォーム事業を展開するEternity Xで、中国インバウンド事業向けのソリューションを提供しています。2023年はシンガポール、マレーシア、タイを中心に展開していましたが、2024年からは訪日中国人へのインバウンド支援に注力し、マイクロアド社と連携しています。
MZ:現在のインバウンド市場の状況を教えてください。
丸木:訪日外国人数は、コロナ禍以前の水準に近いところまで戻ってきたといえます。たとえば台湾では、既にコロナ禍以前よりも以降のほうが、訪日人数は増えています。
中国からの訪日者数はコロナ禍以前の水準までは戻っていないものの、旅行消費額はコロナ禍以前を大きく超えました。2024年12月には中国人向けにビザの発給要件を緩和する調整が発表されたことも背景に、中国からの訪日人数は今後さらに増加し、消費額も伸びるでしょう。
データの取得・活用が課題となるインバウンドマーケティング
MZ:企業にとっては、状況はどのように変わってきていますか。
丸木:コロナ禍を経て、企業側の考え方も変化しているようです。従来は、多くの企業がインバウンドと、海外へ事業を拡大するアウトバウンドを別の領域として捉えていました。ですが、現在はインバウンド・アウトバウンド事業双方を連動してとらえる企業が増えています。
たとえば、日本である商品を購入した訪日旅行者が、自国に戻ってからもその商品を引き続き購入できる状況を目指したいと考えるメーカーが増えていますね。
石坂:コロナ禍でインバウンド需要が大幅に減退した際、海外販路の開拓に本腰を入れた企業が多かった影響もあるのではないでしょうか。現在は、分断されがちだったインバウンド・アウトバウンド事業を連動させるフェーズに入っていると見ています。
MZ:インバウンドマーケティングが盛り上がりを見せる中、企業が取り組む際にどのようなことが障壁となり得るのでしょうか。
丸木:一番の課題は、施策効果の計測だと思います。免税売り上げはわかりやすい指標ではありますが、あくまで全体の成果に過ぎません。マーケティングでPDCAを回すには、各施策の効果を細分化して分析する必要があります。
また需要が増えたことで、ターゲットをより細分化したいという相談も増えています。旅行者が日本に滞在している最中(旅ナカ)にアプローチできる手段が少ない点も、課題です。いずれにせよ、日本国内のマーケティング施策よりも取得・活用できるデータが限られることが大きなハードルとなっていますね。
旅マエ・旅ナカ・旅アト……訪日旅行者の一連の接点を押さえるには?
MZ:データ面の課題に対して、どう対応すればよいのでしょうか。
石坂:訪日旅行者数が月間300万人を突破する中で、一人ひとりに的確なアプローチを行う必要性は日々増しています。たとえば流通や店舗を持つブランド企業などは、「訪日が確定している」「既に来ている」状態の層に向けたターゲティングのニーズが生じます。
そこで、私たちはより効果的なマーケティング支援のため、豊富な中国人データを持つEternity X社と協業を開始しました。これにより、旅マエ・旅ナカ・旅アトと、すべてのタッチポイントを押さえることが可能となったのです。
石坂:訪日中国人へのアンケート調査によれば、事前に作成した買い物リストの商品だけを購入するわけではなく、来日中に「衝動買い」をする人が9割以上にのぼりました。旅マエから旅ナカをつなげたマーケティング戦略の重要性が見て取れます。
MZ:Eternity X社からも、マイクロアド社との協業についてうかがえますか。
アゴス:私たちのような海外企業が日本市場に参入する際、まず大きいハードルは言語面です。さらに信頼性を高められる観点からも、国内でパートナー企業を探すことがカギとなります。
マイクロアド社は海外に拠点を持ち、インバウンド向けソリューションの提供実績や国内の広告代理店との連携にも強みがあり、協業する運びとなりました。
海外大手旅行サイトなどの多彩なデータで、効果的にリーチ
MZ:両社の協業によって、どのようなソリューションが実現できたのでしょうか。
石坂:訪日外国人向けソリューション群「MicroAd X Travelers」の第一弾として、訪日中国人に訴求を行う企業に向け、中国人データを活用した広告配信サービスを2024年8月にローンチしました。
本ソリューションの一番の強みは、データの質と量です。Eternity X社は海外の大手旅行サイトと連携しているため、「日本旅行を予定している」という大雑把なセグメントではなく、どのタイミングで、どういうスタイルの旅行を検討しているのかなど詳細な情報を取得でき、より具体的なアプローチが行えるのです。
また、航空券やホテルの予約データなど、GDS(グローバルディストリビューションシステム)データを保有している点も特徴です。宿泊が確定している訪日外国人に対し、旅マエから質の高いターゲティングを行い、デジタル広告による効果的な訴求が可能です。
石坂:旅ナカのフェーズでは、リアルタイムでタッチポイントを押さえられるデータも保有しています。GPSを活用した位置情報による来店者数の把握も可能となりました。
加えて旅アトも、ユーザーが日本で購入した商品のデータによる継続したアプローチが行えます。この他、中国人であれば、消費データから普段どのような商品を自国で購入・検索しているのかもわかります。このように「MicroAd X Travelers」では、豊富なデータを活用することで一気通貫でのアプローチが実現できるのです。
MZ:デジタル広告による認知拡大の他に、どのような訴求が可能ですか?
石坂:当社では訪日客向けに特化した情報メディア「Japaholic」を運営しています。台湾香港向け(中国語/繁体字圏)から開始し、中国向け(中国語/簡体字圏)となる「Japaholic China」の他、他国版もリリースしています。タイアップ記事で商品やブランドの魅力を発信することで、効果的に消費につなげる導線をパッケージで提供しています。
海外用に国内サイトを単に翻訳した形にとどまる企業が多い中、「Japaholic」は各国にローカライズして情報を掲載しています。当社は海外法人があるため、現地の生の声や世の中のトレンドを反映したコンテンツを制作し、ユーザーに適切な見せ方で発信を行っています。
アゴス:中国向けマーケティングにおいて、データはもちろんのこと、この「Japaholic」の存在は大きな意味を持っています。特に中国国内ではメディアの広告審査が厳しく、誇張表現どころか「最高の○○」という表記すら難しいのが現状です。
その一方で、第3者目線で情報を掲載したサイトで新しい商品や場所を発見する中国人が多いことも事実です。そのため訪日予定の中国人向けにプロモーションを行うには、公式サイトの発信だけでなく、情報サイトとも連携する必要があります。ですから、プロモーションで「Japaholic」を活用できることは非常に強みだと考えます。
予約データや関心データを活用し、成果につなげた事例も!
MZ:「MicroAd X Travelers」の中国人向けソリューションは、どういった企業に活用されていますか。
石坂:2024年8月のリリースから、既にメーカーを中心にインバウンドプロモーションとして、40を超えるキャンペーンを実施いただいております。誰に対してプロモーションを行うのか、というターゲティングニーズの強さを感じています。様々なデータから効果的な方法を考えてターゲットを絞りますが、旅ナカの旅行者に向けてホテルや航空券予約など行動が確定したことを示すデータ(確定データ)を使うケースが多いですね。
メーカーの次に多いのが、商業施設や店舗を持つ小売業の導入です。インバウンドではECサイトよりも実店舗での購入のほうが高いウェイトを占めることが多く、メーカーと流通・小売り間の連携は不可欠です。
また旅マエに関しては、日本への旅行が確定しているユーザーの中で「競合製品を活用している人」「同じジャンルの商品を買っている人」などへのアプローチも効果的です。コスメメーカーであればコスメに関心のある層はもちろん、中国国内でコスメを一定額消費している方にもアプローチすれば、購買確率は高まるでしょう。
MZ:導入企業からはどのような反応がありますか。
石坂:実際に、施策後に「店舗の売り上げがアップした」という声をいただきました。従来の中国向けプロモーションは、春節・夏休み・国慶節などの旅行者が増える時期に単発で行う施策が多かったのですが、現在は毎月のように来日している状況です。そのため、本ソリューションを活用した施策を継続する企業も増えていますね。
人の力とソリューションの両軸でマーケティングを支援
MZ:最後に、今後の展望をお話しください。
丸木:インバウンド・アウトバウンドを連動して捉える企業が増える中、当社では「誰に情報を届けていくのか」を大事にしながら、今後もソリューションを展開したいと思います。その実現のために、今後もパートナー企業を増やしながら機能の拡張も随時行ってまいります。
これらの“人の力とソリューション”の両軸を回すことで、総合的なマーケティング支援を実現していきたいと考えています。
アゴス:今後、中国向けの商品や資本はさらに増えていくと予測され、データやメディア連携の重要性も増していくでしょう。また海外に関しても、中国以外でも現在様々な旅行データを保有していますが、英語圏などより広くソリューションを提供していきたいですね。
石坂:企業は、海外の顧客に向けてこれからより多くのタッチポイントが必要になると考えられます。一方で、国内外へ複合的に展開することで、企業のさらなる売り上げアップにつなげるチャンスと捉えることもできます。今後も、日本企業の力を最大化できるプロダクト・サービスを展開していきたいと思います。