先進企業ではリテールメディア専門組織を置くところも
――では、リテールメディアを活用する広告主サイドの状況はいかがですか? 出稿や効果検証のノウハウが蓄積されているでしょうか?
稲森:メーカーの中には、リテールメディアの専門部署を立ち上げる企業も出てきており、検証や分析は進んでいます。海外同様、リテールメディアへの出稿費をマーケティングと営業どちらの部署から出すべきかといった議論もまだありますが、専門部署が生まれたことで流通横断的な活用も増えている印象です。
また、広告主企業は現在、広告の出し先として、各リテールメディアの精査をしている真っ最中です。たとえば、ドラッグストア1つをとっても、強いエリアやカテゴリー、顧客層などは各社それぞれです。前提として、各小売企業の特徴を理解しておく必要があり、その上でドラッグストアAとドラッグストアBの広告メニューの違い、費用対効果の傾向などを細かく分析していく必要があります。流通ごとにカテゴリーの分け方が違ったりもするので、メジャメントの標準化も含め、一筋縄ではいきません。
――たしかに、各社のリテールメディアを細かく精査するとなると、専門部署や専門の担当者が必要になりますね。
稲森:ええ。そうした中で、リテールメディアのレポーティングもより細かく、高度なものになってきています。リテールメディアの場合、営業部とマーケティング部など部署によって見たい指標やKPIが変わってくるので、必要な項目が多いのです。

営業担当者なら「小売企業への営業提案に活かせるようなレポーティングが欲しい」と考えますし、マーケティングの担当者なら「購買につながったユーザーインサイトを深掘りたい」「広告クリエイティブの検証をしたい」と思うでしょう。
こうした要望に応えるべく、弊社でもレポーティングの項目は常に拡充しており、ブランドの流入流出、LTV、ROAS、ブランドスイッチの傾向、N1分析など、通常のデジタル広告では不可能だった様々な分析レポートを用意しています。単純な購買検証に限らず、購買者、非購買者に分けながらユーザーインサイトの深掘りに役立てることができます。
――リテールメディアを活用する際、広告主はこれからも一つひとつのリテールメディアにそれぞれ対応していかなければならないのでしょうか。アドネットワーク化により、管理の統合が進む可能性はありますか?
稲森:日本でもネットワーク化はいずれ起こると思います。ただ、先述したとおり、各リテールメディアで特徴に違いがありますから、どのように統合しネットワーク化すればよいのか、理想論はあっても、具体的に進めるにはまだまだハードルがあります。
小売企業が持っているデータを起点にネットワーク化できればよいですが、1つの顧客接点だけをネットワーク化することは最終的な理想像ではないと私は考えています。たえば、「オフサイト配信」「アプリ配信」など顧客接点ごとにネットワーク化してしまうと、結局メディアが分断され、リテールメディアの強みを十分に発揮できない可能性があります。
私は、以前のインタビューでも、ネットワーク化はリテールメディア各社の基盤が整ってから取り組むべきだとお話ししてきました。まずは、広告メニューやレポーティングなどを含め自社の強みをビジネスに落とし込み、1社1社基盤を整えることが先決であり、その結果緩やかに横断できるところから連携した活用を可能にしていくのがベストケースであるという考えは変わっていません。
ただ、ネットワーク化できるところまで十分に基盤を築けているリテールメディアも企業も出てきたので、一部の小売企業同士で試験的にネットワーク化を実施してもよいタイミングだと思います。
――視点をまた変えまして、広告代理店がリテールメディア領域にどう入ってきているかも教えていただけますか。
稲森:広告代理店も各社リテールメディアに関心は寄せているものの、運用のベストケースは試行錯誤中なのではないでしょうか。というのも、リテールメディアを活用するとなると、そのリテーラーと細かな調整・交渉が発生します。たとえば、ある商品の広告をリテールメディアで配信しようと思っても、そもそもその商品が店頭に置かれていなければ意味がありません。商品の流通・取り扱い状況はエリアによっても異なるため、商品の配荷率なども加味しながら小売企業と調整をしていく必要があるのです。
予算以上の労力がかかってしまうので、メディアプランニングの中でリテールメディアを組み入れることはまだ少ないのではと思います。