「松本まりかチャレンジ」で形成されたコミュニティ
2024年7月期にテレビ東京で放送されたドラマ『夫の家庭を壊すまで』の番組宣伝においても、TikTokの循環型エコシステム「Endless Cycle」が大いに活用された。
従来の番宣だけではリーチできない視聴者層へのアプローチを目的として、TikTok専用のオリジナル切り抜き動画を制作。TikTokの切り抜き動画がヒットしたことでドラマの認知が広がった結果、TVer再生回数3,000万回という同局史上最高記録を達成したほか、これまで難しいとされてきたF1層(※)の視聴者増加にもつながったという。
※20~34歳の女性を示す区分
この経験を踏まえ、同局の前田有花氏もTikTokでディスカバー(発見)されやすいコンテンツ制作のポイントを紹介する。
第一のポイントは「TikTokユーザーの共感を意識」だ。プロデューサーが見せたいシーンではなく、視聴者がスカッとするシーンを切り出して動画を制作した結果、当該動画の再生数は1,600万を超え、コメント欄も盛り上がったという。
「得られたのは定量的な成果だけではありません。視聴者の方が切り抜き動画をアレンジしたミーム動画を投稿して楽しむ『松本まりかチャレンジ』なる現象が生まれているのです。この現象をきっかけにドラマを観るようになった方もいることから、TikTokのコミュニティがもたらす影響力を実感しています」(前田氏)
第二のポイントは「トレンドやコメントを活用してユーザーを引き込む」だ。『秋山ロケの地図』というバラエティ番組の公式TikTokアカウントでは、TikTok上で流行しているストリートスナップ形式の動画を制作し、多くの視聴者をアカウントへ誘導。動画の最後に視聴者目線のコメントを表示し、ユーザーの投稿を促すよう工夫したという。
バズりやすく制作の手離れが良い「フォトモード」とは?
漫画出版社のコアミックスでは、TikTokの「フォトモード」を活用して、漫画作品の告知を行っている。フォトモードとは、最大35枚の画像と文字で投稿できる機能のことだ。コアミックスの伊藤拓也氏は、フォトモードのメリットとして「漫画のデータをそのまま活用できる」「動画制作に比べて圧倒的に手間がかからない」「バズりやすい」などを挙げる。
同社でもQREATIONと同様、TikTokで発見されるコンテンツをつくるために「最初の2秒」を重視。たとえば漫画の7ページ目に最も魅力的なシーンがある場合、TikTokのコンテンツでは7ページ目を冒頭に持ってくる構成としている。
またフォトモードを効果的に活用するため、ユーザーがコメントを残したくなるようなテーマやエピソードを意識的に選んでいるそうだ。たとえば「生理痛」「子育て」など、悩みの当事者が発話したくなるテーマやエピソードを漫画から抽出しているという。これは、コメントが多く付くコンテンツほどヒットを生みやすいTikTokのレコメンドシステムの特性を活用した工夫とも言えるだろう。
薬剤師の主人公が登場する漫画『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』をTikTokで告知した結果、投稿開始前後30日間の比較において、電子書店での売上が3.5倍に増加。「既に一定の売上実績がある作品でこの伸び率を達成したことは、社内でも特筆すべき成果として評価された」と伊藤氏は振り返る。さらに注目すべき点は、読者層および課金層の年齢が若年層を中心に多様化したことだ。
「デジタルプラットフォームが中心になりつつある出版業界において、TikTokは『作品の認知拡大』と『作家先生へのロイヤリティ最大化』という出版社のミッション達成に貢献すると感じています」(伊藤氏)