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接客と同様に“シグナル”を意識したOMO戦略 ユナイテッドアローズが語るアプリ刷新の裏側・前編

 2024年10月に大きなアップデートが発表された「ユナイテッドアローズ オンライン公式アプリ」。これはアプリリニューアルの一部分であり、「3段階に分けて進めている」という。顧客中心のOMO戦略を推進する同社では、将来を見据えたアプリリニューアルの計画、設計、実装にどのような工夫を凝らしたのか。ユナイテッドアローズ OMO本部の岩井一紘氏、佐々木慎朗氏と、開発を担当したBIPROGYの渡邉充隆氏、島田佳奈氏に取材した。前編となる本稿では、OMO全体設計で特に重要視してきたことを紐解く。

ユナイデットアローズ オンライン公式アプリ、“段階的”リニューアルを実行

━━ユナイテッドアローズ(以下、UA)はアパレル業界のなかでも先駆けてデジタル化に取り組んでおり、OMO戦略を積極的に推進している印象です。そのキーマンである岩井さん、佐々木さんが、それぞれどのような役割を担っているのかを教えていただけますか?

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株式会社ユナイテッドアローズ OMO本部 本部長 岩井一紘氏

岩井:OMO本部で全体管理を務める岩井です。OMOというとデジタル領域の施策と捉えられることが多いのですが、私たちUAは基本的に「お客様軸のコミュニケーション全般」をOMOと捉えており、デジタルだけでなく店舗オペレーションを管轄する役割も担っています。さらに言えば、会員プログラムである「UA クラブ」やCRM、EC、アプリ、そして広告やコンテンツなどもOMO本部で管轄しています。

佐々木:OMO本部デジタルマーケティング部に所属しています。デジタルマーケティング部ではアプリ施策を始め、CRM構築、キャンペーン実施、SNS、スタイリング投稿促進、店舗での他社ポイント施策や、Web広告やデータ分析、活用など多岐にわたりますが、私はアプリをメインに担当しています。

━━「ユナイテッドアローズ オンライン公式アプリ(以下、公式アプリ)」のリニューアルを進めているそうですが、その内容を教えてください。

佐々木:当社のアプリは今まで、会員証としての役割がメインでした。ただ、それ以外の利用の役割を持たせ、お客様との接点をより多く持つことで、お客様と長いお付き合いをしていきたいという思いから、まずは「より使いやすさを実現していこう」となりました。

 リニューアルは2024年から段階的に進めているもので、実はまだ完了していません。2024年の6月に第1回リリース、10月に第2回となる大きなリリースを行いました。最終リリースは今月末を予定しています。

キーワードは「おもてなしアプリ」、その狙いとは?

━━段階的に進めている理由は何でしょうか。

岩井:ブランドの世界観を伝えるという全社的な動き、そのプロモーション施策とも連動するように公式アプリのリリースを進めていこうと考えたのですが、一つ問題がありました。それは「リニューアルによって売上が落ちるのではないか」というリスクです。一般的に見て、ECアプリがリニューアルすると、ユーザーが新しいアプリに慣れずに売上が落ちるという現象はよくあります。そこで、段階的にリニューアルをかけてお客様の体験負荷をなるべく避けたいと考えました。

━━なるほど。そこでアプリ開発を担当したのがBIPROGYさんなのですね。

渡邉:はい。BIPROGYがSaaSとして提供している「Omni-Base for DIGITAL'ATELIER」(OBD)の導入コンサルタントの渡邉です。今回はスマートフォンアプリリニューアルの技術統括アーキテクトとしてプロジェクトに参加しました。

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BIPROGY株式会社 プロダクトサービス本部 第六部 OBDサービス運用室 シニア・スペシャリスト 渡邉充隆氏

島田:OBDの適用コンサルタントの島田です。SaaSであるOBDの導入に際しては、単にお客様の業務を把握するだけでなく、その背景を理解することも重要になります。私のほうでは、お客様のご要望をお聞きしながら、お客様の求める運用や業務をOBD上で実現するための検討を行っています。

 今回のプロジェクトではプロジェクトリーダーという形で参加しました。

━━では改めて、今回計画されてきたアプリリニューアルについて教えてください。

岩井:コンセプトは「おもてなしアプリ」です。そもそもアパレルは基本的に接客ありきのビジネスモデルで、その意味で言えば店舗は最も大きなお客様接点と言えます。そして店舗でのおもてなしは、お客様にどのようなタイミングでどんなお声がけするかが重要なポイントです。今回のアプリリニューアルは、「デジタル上のパーソナライズをいかに上げ、店舗での接客精度に活かしていけるか」に焦点を当てて実施しています。

接客に必要な“シグナル” 察知のために基礎課題の解消から着手

岩井: UAではお客様の入店に応じてすぐに「これいかがですか、こちらはどうでしょう」とお声がけすることはまずありません。私自身も店舗研修で学んだのですが、お声がけが必要かどうかを判断するために、その“シグナル”となるお客様の行動を見る必要があります。たとえば商品の値札をお客様がわざわざ見ているということは、ご自身のなかで審議して何らかの結論が出た状態と言えます。このようなシグナルをどのように取っていくかが大切なのです。

 今回のアプリリニューアルでは、お客様のデジタル行動によってお客様理解を深めると共に、アプリを通じて店舗におけるお客様行動も把握し、店舗での接客を向上させていく狙いがあります。

━━これまでにはどのようなリニューアルが行われてきたのでしょうか。

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株式会社ユナイテッドアローズ OMO本部 デジタルマーケティング部 エグゼクティブマネジャー 佐々木 慎朗氏

佐々木:以前のアプリはWebビュー主体だったため表示速度に課題がありました。そこでネイティブアプリ化によって速度向上を目指したのです。ただし全機能を一気にネイティブ化するのは難しかったので、最初に行った6月のリリースでは商品一覧機能や店内商品のバーコード読み取り機能などの一部機能からネイティブ化を進めました。

 10月はUIを大幅に刷新しました。かつてはフッターメニューが5つ、ヘッダーメニューが4つあったのですが、フッターを3メニュー、ヘッダーを2メニューとシンプルにし、使い勝手を向上しました。一例を挙げると、UAクラブのマイル貯金やクーポンを貯める会員証機能を上部に移動させて直感的な操作性を実現しています。

 また、従来は商品やスタッフだけに有効だった「お気に入り機能」を拡張し、ストアブランドとスタイリングもお気に入り登録できるようにしました。これにより検索時のブランド指定が容易になったほか、自身のスタイリングや着回しにも役立てられます。

課題は「お客様の自然な購買行動」に対応できていないということ

━━今回のリニューアルはどのような経緯で行われたのでしょうか。

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2024年10月時点のリリースより

佐々木:実は2年前にECとアプリをリニューアルした際、お客様から「表示速度が遅い」というお声をいただいていたのです。アプリの使いやすさを改善すれば売上が向上することはわかっていたので、今回のリニューアルを決めました

 なぜアプリを改善すれば売上が上がるのかといえば、今まで店舗で購入していたお客様は、会員ではないケースが多く見られました。しかし、そのお客様がアプリを利用すると、会員登録する割合が高くなります。会員登録すると、その分年間購買額が増える傾向があります。また、アプリを利用しているお客様は、ECや店舗を問わず、年間の購買金額が高いという傾向も見られました。

 もう一つリニューアルのきっかけを追加すると、先ほど岩井が説明したように、お客様理解をより深めたいという思いもありました。以前は当社の会員証もプラスチックのカードだったのですが、その場合は購入しない限り店内で提示されることはないので、「購買しないけれど来店したお客様」を認識することはできません。店頭でのお客様行動が抜け落ちてしまうのです。具体的なことは次回のリニューアルに関わるのですが、店頭でアプリを利用していただくことで、お客様のことをより深く理解できるようになります初めて来店された方には将来の顧客になっていただき、既存のお客様にはリピーターやファンになっていただけるような仕組みを実装したいと考えました。

岩井:そもそものOMOの課題なのですが、実は企業側は購買者の実態を把握できていないという現実があります。佐々木の話にあったように、お客様が店舗に入った途端にデータが取れなくなり、逆にお客様が外にいる時にデータが取れるというのは、よく考えるとおかしいですよね。それはつまり「お客様の自然な購買行動」に私たちが対応できていないということです。

 もう一つあります。それは、お客様接点においてアプリの存在がこれからも大きくなっていくことが考えられるからです。そうすると問題になるのはスピードです。たとえば店頭でアプリをインストールしていただき、お客様情報を入力いただく時に反応が遅ければ顧客体験を大きく損ないます。スピードをいかに改善するかという点も大きな取り組みでした。

BIPROGYが考える「OMO戦略の実現・推進の難しさ」とは

━━BIPROGYでは様々な企業のアプリ開発に携わっていると思います。アプリを活用したOMOの推進において、一般的にどのような企業課題が多いのか、その傾向を教えてください。

島田:OMO推進のご相談は多くの企業の方から寄せられていますし、実際にOMO投資は増加していると思います。そのなかでアプリ開発のご相談が多いのは、やはり「実店舗とECのシームレスな購買体験」を実現したいという目的があるためで、お客様との接点になるアプリは重要な役割を担っています

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BIPROGY株式会社 インダストリーサービス第一事業部 営業二部 コマース&サービス営業所 島田佳奈氏

島田:ただし、課題も多くあり、その一つは、店舗とECの顧客データの差異ですECと実店舗で収集しているデータ項目が異なるため、店舗・ECで共通のマーケティング施策を実施できないというケースはよくありますし、アパレル企業の場合はブランドごとにECサイトがあってそれぞれで顧客データを収集しているため、なかなか同条件の施策を打てないという悩みを聞きます。

渡邉:OMOのお話を伺っていると、その目的は大きく2つに分類できると考えています。一つは今日のUA様のように、お客様との接点を重視して顧客関係のさらなる向上を目指すOMOです。もう一つは、在庫効率性などオペレーション改善を中心としたOMOです。

 どちらも大切なのですが、オペレーションの効率化視点の場合、個別最適に陥って、UI/UXの観点で横連携が難しくなるケースが間々あります。当社がご支援する場合にはそうした事態を避けるため、お客様視点で全体設計できるように上流フェーズで意識合わせをしています。

OMO全体設計においてUAが求めたこと

━━OMOの実現に当たり、お客様視点での全体設計が大切という話が出ましたが、今回のアプリリニューアルプロジェクトを含むOMO全体の設計におけるコンセプトや、企業としてどのようなことを実現したいと考えたのか、そのパーパスについてもお聞かせください。

岩井:2023年5月、私たちは「長期ビジョン2032」で「美しい会社ユナイテッドアローズ」という言葉を掲げました。

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当時のリリースより。画像上が長期ビジョン2032、画像下がその達成に向けたスタートとなる新中期経営計画のスローガン

岩井:この「美しい」という概念をどう捉えるかは個々の社員に任せられています。というのも、私たちは単に服を販売しているのではなく、お客様の魅力をいかに引き出していくかを提供価値としているからです。

 そのため接客もそうなのですが、私たちUAはお客様を中心に、「お客様が『長期的に来店したい、この店を選びたい』と思っていただくには何が必要か」をそれぞれで考え、お客様の思いを常に意識するように心がけています。先ほどの「シグナルの精度を上げてパーソナライズしたおもてなしを向上させたい」というのもその一環です。そのため「店舗スタッフがアプリを介してどのように接客できるか」という点は非常に大切な要素でした。私たちのパーパスを活かすのはやはり接客であり、その接客の起点としてOMOをどう作っていくかという点が設計の基本部分です。

 そうすると、お店からECにどのように行っていただくかというプロセスも設計しなくてはなりません。OMOでは「あれもこれもやらなければ」と焦ることになりがちなので、そうではなく狙いを定めてそこに向かっていくように注力しました。今回でいえば、あくまで「店舗とその接客」にアプリをどう活かしていくかを考えて進めた形です。

━━ありがとうございます。その思想で具体的に全体設計をどのように進めたのかは、後編で伺いたいと思います。

OMO機能をオールインワンで提供する「Omni-Base for DIGITAL’ATELIER」

 Omni-Base for DIGITAL’ATELIERは、店舗とECを横断した在庫管理や顧客管理が可能なバックオフィス機能を兼ね備え、OMO戦略を実現するためのフルフィルメント業務全般をオールインワンでカバーします。本記事で興味を持たれた方は、DIGITAL’ATELIER公式サイトからお問い合わせください。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:BIPROGY株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/01/24 10:00 https://markezine.jp/article/detail/47808