社会全体で揺らぐ「信頼」
そもそも、世の中は「信頼」をベースに成立していますよね。たとえば飲食店で出される食事も、しっかりと衛生管理されていると信じているからこそ、安心して食べられます。紙幣や電子マネーも「偽物かもしれない」となれば、その価値を失ってしまうもの。また信用できない人と親しい人間関係を築くのは難しいと思います。
さて、この社会を成立させている「信頼」が、近年グローバルで大きく揺らいでいると言われています。
たとえば、少し前のコロナ禍では、様々な情報が錯綜する中で、正しい情報を見分ける難しさを経験された方も多いでしょう。近年はソーシャルメディア上で「フェイクニュース」や「陰謀論」などが拡散されることもしばしば。さらには、前回のトランプ政権では「代替的事実」という、“もう一つの事実だって存在する”と言う主張まで出てきました。ここまで来ると「正直何を信じて良いの?」と思ってしまいますよね。
このように、今多くの生活者が「社会全体で信頼が失われている」と感じていることが、HAVAS社の調査からもわかってきました。特にプロシューマー層(トレンドを生み出し、社会の消費行動に影響を与える生活者グループ)においてその傾向は顕著です。
元来「ブランド」は「信用」を表す目印として生まれた側面もある中、下記の調査結果にように、社会的機能の中でも、特に信頼度が低くなっていることは、懸念すべき点と言えるでしょう。
では、このような「信頼」が揺らぐ現代において、どのようにブランドは生活者と関係性を築けるでしょうか? 今回の記事では、海外での事例を紹介しながら、糸口を探っていきたく思います。
「サイエンスと実演」の事例 Blendtec – Will it Blend?
ご存知の方もいると思いますが、Blendtec(ブレンテック)は「Will It Blend?“(それブレンドできる?)」というインフォマーシャルで有名な、ブレンダー商品です。
過去30年以上にもわたって続いているというこのシリーズには、創業者であるトム・ディクソン氏が研究者用の白衣を身に纏って登場。同氏は実験室に見立てたスタジオにて、ありとあらゆるものをブレンダーで砕き続けており、その模様は現在YouTubeで公開されています。
自社のブレンダーのパワフルさ立証するために、iPhoneであったり、爆竹であったり、時には有名アーティストのCDやフィギュアなど(なんらかの私情が入っていそうなものまで……)、とにかく硬いものをブレンドしてみせます。動画の最後では粉々にブレンドされたものがテーブルに披露され「Yes, It Blends!(ブレンドできる!)」というフレーズで締め括られます。
トム・ディクソン氏のキャラクターも相まって人気の高いコンテンツですが、同時にシリーズを通して、自社製品の機能を、視聴者の目の前で偽りなく実証していることは、注目すべき点だと考えています。実際に生活者は、実演や科学的な論拠を示されたブランドに対して、より大きな信頼を寄せており、このシリーズの有効性が伺い知れます。
歴史を紐解いてみると、人々は幾つかの物事の捉え方を論拠に、信頼を持ってきたことがわかります。創造主の存在を認める宗教的な信仰から、今のスピリチュアリズムに継承されている自然崇拝的な(アニミズム的な)信心、そして検証に基づく科学への信用が挙げられます。特に現代では、サイエンスやテクノロジーの発展に見受けられるように、多くの生活者は科学を信頼し、それがブランドの信頼を得る有効な方法であることがわかります。
この対比は英国でのヤクルトのテレビCMでも見て取れます。「ミステリアスな盆栽から抽出した神秘的なエッセンスからヤクルトが〜」と、どうしても言いたい天の声を、別のナレーターが「科学的に腸に働くと立証されたバクテリアが含まれています」と制止する内容。ヤクルト商品が科学的な根拠をベースに作られていると伝えることで、生活者からの信頼をより強固なものにした好事例として挙げられます。