番外編「新・トリプルメディア」の年
ベムが『トリプルメディアマーケティング』を書いた2010年からもう15年が経った。この間、ペイド・オウンド・アーンドの3つのメディアという概念はマーケティングの世界ではかなり普及したと思う。
当時は企業のマーケティングメディアの急激な拡大から、混乱をきたさない様に、その特徴ごとに整理するとともに、それぞれの重なりや連携を重要視することを書いた。概念としては3つの輪がバラバラにならず、かつ3つが重なるところにピンを打っておこうという主旨である。つまり3つはCMOによってすべて統合的に管理運営されるべきであるということを提唱したわけである。しかし一部ではこのPOEにマス・リアル・デジタルの3つを掛け合わせて9つのマトリックスを作って、それぞれを分掌化してしまう結果になった向きもある。
またPOEは企業のマーケティングメディアだが、テレビやスマホに加えてデジタルサイネージをトリプルメディアと呼んでいる場合があるようだ。しかしこれはトリプルスクリーンと呼んだ方がいいだろう。オウンドメディアには自社商品のパッケージも含まれる。狭義のメディア(広告メディア)にとらわれない考え方をしたいものである。
さて、この15年で一番進化したのはSNSである。アーンドメディア(評判を得るメディア)と単純に捉えることも出来なくなった。SNSは消費者インサイトを得る手段でもあり、ブランドメッセージの開発に欠かせないものになっている。マーケティング施策も当時とは比べ物にならないくらい複雑多様になった。
またテレビの状況も一変している。放送形式だけで生き残るのはもう無理だろう。一方ネット動画もデバイスを大画面テレビモニターへと広がりを見せている。
そして今急速に市場を拡大しているのがリテールメディアだ。【5】に書いたように、リテールメディアの概念の変化に追いつかないといけない。
POEでいうとオウンドメディア戦略については、うまく行っている企業は少ないかもしれない。パブリッシャーではないため、一次的にコンテンツを作っても続かない。これはオウンドメディアの「メディア」というワードに、従来メディアのモデルに振られ過ぎるのだろう。媒体社になる必要はない。
また「POEすべてを揃えないといけない」なんてことはない。
もうひとつ今のマーケティングの考え方として、認知から購買へというフローを描いて、それぞれの役割を持たせたメディアを使っていくという発想がもう古いのだと思う。同じメディアでも、ある人には認知であり、ある人にはレリバンシー(「このブランドは自分と関わりがある」と意識する)、ある人には最後にプッシュになる可能性がある。もちろんメッセージは最適化する必要はあるが、個別にメッセージを変えられるメディアや仕組みは15年前より格段に増えている。
今年はPOEより実践的な「新・トリプルメディア」を再編してみる年だと考えている。
