コモディティ化する企画とブランドの課題を打破するには
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日は、花王様とNatee様が実施したクリエイター共創型のプロモーションについてうかがっていきます。まずは、なぜこの取り組みを実施するに至ったのかお聞かせください。
花王 マーケティングイノベーションセンター/メディア企画開発部(以下、花王 メディア企画開発部):花王では様々なマーケティング活動を行っていますが、SNS施策においては年々企画内容のコモディティ化が進み、独自性を出すことが難しくなっていると感じています。そのためSNS企画の立案様式におけるブレイクスルーが必要だと感じ、Natee様にご相談したのが始まりでした。

花王のトータルメディアプランニング専門の部署として、各事業部を横断で担当。新たなメディアプランニング手法の開発や、事業部のメディアに関するサポートなどを行う。
Natee 大江:花王様の課題を伺った時、驚きとともにとても嬉しかったことを覚えています。実は、私たちも「SNSクリエイターとより深く共創できるマーケティング施策を設計できれば、新しい手法になり得るのではないか」と考えていたからです。
SNSクリエイターは、生活者との距離が近くリアルな心情を理解しているため、発信するコンテンツが共感を生みやすい。しかし従来のプロモーションでは、クリエイターはあくまで「依頼を受ける側」として参加することが多く、彼らの視点を戦略に活かしきれていないと感じていました。そこで私たちは、新たなアプローチとして“企画段階からクリエイターを巻き込む”「CREATIVE BREAKING SUMMIT」を立ち上げました。
このサミットでは、プロモーション設計の段階でクリエイターとブランドがディスカッションを行い、自由な発想でアイデアを創出します。実際に、このサミットから生まれたアイデアをもとに、生理用品ブランド「ロリエ」の「しあわせ素肌 もちふわfit」のSNSプロモーションを展開しました。
ブレイクスルーを生み出す「クリエイター共創プロモーション」
Natee 大江:プロジェクト設計にあたり、フラットにクリエイターのクリエイティビティが発揮できることを優先して企画に落とし込みました。
通常は、ブランド側が設定したコミュニケーションテーマをもとにプロモーションの企画を立てますが、この手法には二つの課題がありました。一つ目は、クリエイターが生活者起点の良いアイデアを持っていても、既にテーマの方針が決まっているケースが多いため大胆な提案は採用されづらい点。二つ目は、「仕事を依頼する側」と「仕事を受ける側」という立場に分かれることで、自由なディスカッションが生まれにくくなるという構造的な課題です。
そのため、コミュニケーションテーマを決める前段階のまだ比較的企画などを自由に検討できるタイミングから、 私たちやクリエイターがディスカッションに入らせてもらうことで、ブランドの皆様にも新しい価値を提供できるのではないかと考えました。

SNSマーケティング事業を行うNateeで、事業責任者を務める。企業やブランドの価値を消費者に届けることをミッションに活動する。
MZ:なぜ、数ある花王ブランドのなかでロリエ事業部が参加することになったのでしょうか。
花王 ロリエ事業部:理由は二つあり、一つは新製品メインターゲットが若年層であること、もう一つは生理用品という特性的にSNSでの自然な話題化が難しいことです。生理用品市場では、最初に使ったブランドが使い続けられる傾向があるため、若年層の獲得が重要です。若年層をターゲットにしたSNS施策で、自然な話題化を狙いつつ製品の機能・特徴を効果的に伝えていくヒントを見つけたいという期待感がありました。

生理用品ブランド「ロリエ」のブランドマーケティング全体を担当。デジタルマーケティングの推進もミッションに掲げる。
MZ:CREATIVE BREAKING SUMMITの内容について詳しく教えていただけますか。
Natee 圓谷(つむらや):ロリエの「しあわせ素肌」を対象に、若年層に刺さるコミュニケーションテーマ・アプローチについて自由に発想を膨らませ“アイデアをぶつけあう”大会にすべく設計しました。具体的には、Nateeとしてクリエイターを含めた7名の提案者が参加し、花王様のメディア企画開発部、ロリエ事業部、作成センターの計12名の方にプレゼンを聞いていただきました。
またNateeならではの設計として、企画をどのように活用いただいても良い「採択の自由」を取り入れました。花王様には、大会内で出たアイデアすべてを採択しても良いですし、それぞれの良いところを組み合わせても構いませんとお伝えしました。
“いいとこどり”な施策アイデアを実現する「CREATIVE BREAKING SUMMIT」とは
MZ:各事業部の皆さんは、実際に参加されていかがでしたか。
花王 ロリエ事業部:まさに「いいとこどり」のアプローチで、実効性の高い施策として落とし込むことができました。社内で高い評価を得た複数の提案から優れた要素を抽出して組み合わせるという、これまでに経験のない企画の作り方でしたね。7名という多くの方々から提案をいただき、しかもすべてが実務で活用可能な形で分解・整理されていたところにもレベルの高さを感じました。
花王 メディア企画開発部:この設計には正直驚きましたね。そして今回特に良かったのは、アイデア段階から花王側の関係者が一堂に会し、議論できたことです。各部門が意見をその場でシェアすることで認識合わせをすぐ行えましたし、率直な意見を出しやすい環境が生まれました。
少し具体的な話をすると、このCREATIVE BREAKING SUMMITでは、動画×音声といったクロスメディア戦略など新たなアイデアや気づきもたくさん得られました。
参加クリエイターはプロジェクトをどう見たか?
MZ:まいぱんさんはクリエイターとして、CREATIVE BREAKING SUMMITに実際に参加されたのですよね。
まいぱん:Natee様からこの企画のお話をいただいた際、すぐに強い意欲が湧き二つ返事でお引き受けしました。通常のタイアップ施策は既に決まったテーマのもと動画を制作しますが、今回はブランド担当者様に直接提案ができてフィードバックまでいただける。自分自身の創造力を磨くチャンスだと思いました。

TikTok(@maipan_03)をはじめ、SNSを中心に活動するクリエイター。若年世代の女性を中心としたファンの共感を生み出す動画制作を強みとする。
Natee 圓谷:まいぱんさんは、独自のファン層やフォロワーとの強い関係性を持っていらっしゃいます。何より「生活者視点」をお持ちで、今回の企画大会にピッタリだと思いました。実際に事前にInstagramで生理や生理用品に関する意識調査を実施するなど、ご自身ならではのコミュニケーションを取ってくれました。
MZ:具体的に取り組みを進める中で、花王様が意識したことを教えていただけますか。
花王 ロリエ事業部:特に意識したのは、プロジェクトの初期段階からブランドの課題や施策の目的について、まずは社内での意識共有を徹底的に行うことでした。各部署での目的がバラバラにならないよう、新しいアイデアをプロモーションとして成功させるために、一丸となって進めました。
花王 メディア企画開発部:具体的には週1回の定例会議の開催やチャットを活用した迅速なコミュニケーションの仕組み構築など、リアルタイムで全員で課題を共有し、意思決定できる環境を整えたことが成功要因の一つだと考えています。
花王 作成センター 第1ブランドクリエイティブ部(以下、花王 作成センター):クリエイティブ面では、これまでは生理用品のセンシティブな部分を考慮し「これは表現が難しいだろう」と慎重にならざるを得ないことが多々ありました。しかしCREATIVE BREAKING SUMMITではそういった制限を一旦取り払い、より創造的な発想で臨むことができました。生活者でありSNSのプロフェッショナルでもあるクリエイターの方々から、良い刺激をいただけましたね。

インハウスのクリエイティブ部署で、花王における各ブランドの広告コミュニケーション戦略立案からコピーライティング、SNS動画制作まで、クリエイティブ全般を担う。
花王 作成センター:その後のプロモーション施策については、クリエイターさんの表現の意図を尊重することを重視しました。これはロリエのブランドスタンス「それぞれの生理の過ごし方を否定せず、寄り添う」という考え方とも合致しています。
それでも、表現の自由度と商品メッセージの効果的な伝達とのバランスは難しいものです。そこで、Natee様がブランドとクリエイターとの架け橋となって両者の意図を適切に翻訳・伝達してくださり、表現と訴求のバランスを保つことができました。
PR動画でオーガニック100万回再生達成も!音声広告のクリック率も業界平均の4〜5倍に
MZ:CREATIVE BREAKING SUMMITの後のプロモーション施策においては、まいぱんさんはどのようなことを意識して動画作りに取り組まれたのですか。
まいぱん:主に3点を意識しました。一つ目は視聴者の「自分ごと化」の実現です。生理の症状が重い人/軽い人という異なるキャラクターを登場させ、どちらのタイプの方でも共感できる内容にしました。
2つ目は動画のコメント欄での交流を促進し、視聴者同士のコミュニティ形成を図ったこと。「生理2日目が1番しんどいんだけど、みんなはどう?」と私自身の生理事情を投稿文にしたことで、「2日目1番辛いよね」「私はそこまで辛くない」など、視聴者の皆さんも意見や共感をたくさんコメントしてくれました。
そして3つ目は、生理用品という商材を明るくポップに表現することでポジティブなメッセージ発信を心がけたことです。20代前半の会社員の女性をメインターゲットとしながら、エンターテインメント性を重視することでより若い層へのリーチも意識したクリエイティブとなっています。
MZ:プロモーションの成果についてお聞かせください。
Natee 圓谷:TikTokの成果については、1キャンペーンにおけるPR投稿での100万回再生達成率が非常に高い数値を記録しました。また、製品への興味や購買につながりやすい指標として重要視している「いいね」「保存」についても、業界平均の2〜3倍を記録しました。まいぱんさんの動画もその中に含まれています。
CREATIVE BREAKING SUMMITを通じクリエイターの方々とブランドへの理解を共有した状態でプロモーション施策を実施したことが、成功につながったと考えます。
この他、新商品オリジナル楽曲を使用したSpotifyの音声広告では、業界平均の約4〜5倍の反応がありました。また、楽曲を歌ったクリエイターさんに別のプラットフォームでその楽曲を活用したPR投稿をしてもらい、プラットフォーム横断での良質なリーチおよび視聴者やファンからの発話創出にも成功しました。

SNSマーケティング事業を行うNateeで、SNSを中心とした統合マーケティングのプランナーとして各種ブランドの支援を広く行う。
花王 ロリエ事業部:花王として前例のない新しいマーケティングスキームでしたが、このように良い結果につながりました。またブランドとしての成果は、SNS上でオーガニックなUGCやレビュー、新商品に対するユーザーの声が多く得られたことです。クリエイターの方々との共創が効果的に機能し、ブランド単独では届きにくかった層までリーチできたと感じます。
Natee 圓谷:それぞれのクリエイターの特徴や強みを活かして、目的別に起用を行ったことも成功要因の一つです。認知拡大が得意、商品説明が上手いなど、キャンペーン全体を通して彼らの個性を最適な形で活かせるキャスティングプランを作成し、クリエイティブを制作していきました。
花王のデジタル戦略におけるイノベーションに
MZ:今回の取り組み全体の感想をお聞かせください。
花王 ロリエ事業部:特筆すべき点は、生理用品という比較的マーケティングが難しい商材においてデジタル戦略の一つの成功パターンを見出せたことです。アイデア段階から入ってもらうことで、本当の意味での「クリエイターとの共創」が実現したと考えています。その上で定量面での成果にもつながり、得られた知見は今後のロリエ事業部の施策展開においても活かせる、非常に価値ある学びでした。
花王 作成センター:メディア展開においても、一つのSNSでなく複数のSNSで役割を明確にし、複合的に展開することで統合的な取り組みを作り出せました。アイデア段階から関係者が一堂に会して議論をしたことで統合的なマーケティングが実現できたと考えています。複数のメディアを横断的に利用する現代の生活者実態に合致した、クリエイティブ戦略に取り組むことができました。
花王 メディア企画開発部:ロリエ事業部や作成部が新しい成功パターンを見出した取り組みとなり、実施してよかったです。ぜひ、今後は花王の他ブランドが抱える課題解決にも活用したいと考えています。
Natee 大江:花王様に今回の提案にご快諾いただけたからこそ、このような事例を創出できました。今回の取り組みは「今持ち合わせているクリエイティビティをフラットに発揮できる場」の提供が一番の価値だと感じます。
今後はさらにブラッシュアップした取り組みを構想し、素敵なブランドがより輝き、マーケターやクリエイターがよりクリエイティビティを発揮できるよう尽力してまいります。