思い出される、Microsoft vs司法省の戦い
もちろん、米国司法省の是正案がすべて通るとは限らない。だが、政治力を失ったGoogleはかなり不利な立場になっているらしい。2025年からのトランプ政権で大きな政治力を握ったのはイーロン・マスク氏だ。イーロン・マスク氏とGoogleのこれまでの関係は決して良好なものとはいえない状況だ。たとえば、以下のようなニュースをご記憶の方は多いだろう。
さて、Googleのスンダー・ピチャイCEOは、手のひらを返したようにトランプ氏に媚びを売るような発言をしている(参照記事:トランプ氏にテック企業から祝意続々 規制緩和路線への転換に期待)。報道によれば、トランプ氏もGoogleの解体には否定的であり、かつ、対中国との技術競争の観点から、Googleの存続には意義があると見ているようだ。
そうすると、結局、歴史は繰り返す。この状況から、多くの人がそう思っている。1998年にMicrosoftが反トラスト法で訴えられて、司法省との和解条項が満了したのは2010年だった(参照記事:米司法省、Microsoftとの12年にわたる独禁法訴訟の終結を発表)。
政治力を失ったGoogleと司法省の戦いも、おそらく、かなりの長期戦になる。トランプ氏やイーロン・マスク氏からすれば、生かさず殺さずというスタンスで、落としどころを探ることになる。
2025年以降の10年間で起こるであろう3つのこと
反トラスト法訴訟は、Microsoftにどのような影響を与えたのか? その答えをビル・ゲイツ氏自身が語っている。2019年、彼はCNBCのインタビューで回顧的にコメントしている。
「There’s no doubt the antitrust lawsuit was bad for Microsoft, and we would have been more focused on creating the phone operating system, and so instead of using Android today, you would be using Windows Mobile if it hadn’t been for the antitrust case」
意訳:マイクロソフトにとって、反トラスト法訴訟は悪影響を及ぼした。疑う余地はない。もし訴訟がなければ、スマホのOS開発にもっと力を注ぐことができただろうし、もし訴訟がなければ、あなた方が現在、Androidを使っていることはなかった。Windows Mobileを使っていただろう
引用元:「Bill Gates: If antitrust case hadn’t happened, Microsoft would have built a phone operating system」
1998年から2010年の12年間に、大きく3つのことが起こった。
1998~2010年の振り返り:Microsoftの失速とGoogleの躍進
1.米国政府はMicrosoftの独占を阻止するために、反トラスト法訴訟でMicrosoftの手足を縛る。と同時に、ほかのIT・ネット企業をバックアップした。その政治力をうまく活用したのはGoogleだった。
2.そして、ビル・ゲイツ氏のいうように、Microsoftはモバイル市場(当時の新しい市場)を失った。iPhoneとAndroidのシェア拡大につながった。
3.抱き合わせ販売を禁止されたInternet Explorerもシェアを失った。そして、Chromeのシェア拡大につながった。
2025年以降、10年ほどをかけて起こることは、大きく次の3つだ。
今後10年間で起こること:政府はGoogleの支配を終わらせ、明日の支配も困難に
1.米国政府はGoogleの独占を阻止するために、反トラスト法訴訟でGoogleの手足を縛る。と同時に、ほかのIT・ネット企業をバックアップする。その政治力をうまく活用するのは、OpenAIなど新興のテクノロジー企業だ(おそらく、Microsoftではない)。
2.そして、Googleは勃興するAIの市場(現時点の新しい市場)を独占できない(あるいは、失う)。Googleは以前のMicrosoftのように研究開発はできるのだが、自社の検索エンジンなどのサービス以外に市場を拡大しようとすると司法省のチェックが入ってしまうため、思うようなビジネス展開ができない。
3.Chromeの事業売却、Androidの分割など司法省の是正案によって、Googleはブラウザのシェアを徐々に失う。
確実なのは、Googleは検索エンジン(古い市場)のビジネスを守るために、司法省と争ってしまうことだ。その争いにエネルギーを割いている間に、昔のMicrosoftがそうだったように、「新しいAI市場」に対して出遅れてしまう。逆にいえば、司法省の狙いはそこにある。どのような手段を使ってもGoogleの独占を阻止し、「古い市場」に釘付けにして、「新しいAI市場」を支配できないようにする。それが、司法省の目的だ。
米国司法省は「今日のグーグルの支配を終わらせるだけでなく、明日の支配もできないようにしなければならない」(引用:Google分割視野 米当局「国家超え企業」肥大化を抑止)。
この争いは、長期化すればするほど、Googleに不利になるはずだ。長年のGoogleファンにとっては、少々、残念ではある。
