表面的な売れ筋ではなく根源的な欲求を深掘りする
──なぜ、ペルソナ策定をした上で訴求ポイントを作品に落とし込むというアプローチを取られたのでしょうか?
高根:私が制作に携わるようになったタイミングは、オリジナル作品で大人の女性向けの一般漫画の割合を増やし始めていた時期でした。もともと制作していた「ティーンズラブ(TL)」というジャンルは訴求ポイントが性要素とわかりやすくヒットを再現しやすかったのですが、一般作では同じ恋愛ものでも売れる作品と売れない作品があり、ヒット作を生み出すことに苦心していました。

高根:売れる作品を生むアプローチは、2つあると考えています。1つは売れている作品を表面的に模倣することです。ただし、このやり方だと同じようなストーリーやキャラクターが量産されることになります。
もう一方は、なぜ読者がその作品を好むのかを分析して「訴求ポイント」を言語化し、根っこの部分を再現することです。チーム内でも表面的な欲求ではなく、読者の根源的な欲求を深掘りした作品作りをしたいという声が出ていました。そうであれば、まずは読者像を明確にするためにペルソナ策定からやってみよう、という話になりました。
──どうやってペルソナを策定しましたか?
高根:「ともこさん」の策定にあたり、マーケティングデータの分析の他、既存ユーザーを対象としたアンケート調査や1対1のインタビューを実施しました。また策定したペルソナは「そろそろ読者の嗜好が変わってきたかもしれない」と感じたタイミングで見直しも行います。ペルソナはあくまでも仮説に過ぎないので、販売データで結果を見て検証し、イメージをより強固にアップデートしています。
またインタビューで心掛けているのは、表面的に「何が好きか」という話よりも、「なぜ好きなのか」「どうしてそれが心地よいと思うのか」という価値観を探ることです。ペルソナの嗜好の根拠になるような話を引き出す努力をしています。
売れるポイントを明示しヒット率が向上
──その分析結果を、実際の作品制作にはどのように活かしているのでしょうか?
山内:ペルソナ像と訴求ポイントを編集者と漫画家さんに共有し、その要素を含んだ作品の企画・制作に取り組んでいます。編集者と漫画家は二人三脚で作品を作っていく関係です。だからこそ、明確な指針と共通認識を持ちながら制作を進めることが重要だと考えています。

山内:そこで私たちはマニュアルを作成し、ペルソナや訴求ポイントを明確に伝える工夫をしています。そのマニュアルでは、訴求ポイント別のおすすめのジャンルや設定、今売れている内容の紹介に加えて、バナー広告にする上でユーザーを惹きつけられる構図も伝えています。
高根:とはいえ、編集者が一方的に「こう作ってください」と指示するのではなく、あくまで漫画家さんとの対話の中で作品を作り上げることを大切にしています。おすすめのフォーマットは共有しますが、その型にきっちり沿った作品を作ることを強制しているわけではありません。最終的に、それをどうアレンジしていくかは現場に裁量が与えられています。指針は持ちつつも、クリエイティブの自由度を保つことで、多様な作品が生まれているのだと考えています。
山内:どういった作品を作れば売れるのかを、明確に提示できるのは我々の強みですね。データに基づいて「どう漫画を作るか」まで落とし込めたからこそ、ヒット率も年々向上しています。
