ハイパー・パーソナライゼーション:Spotify – AI Playlist
顧客体験でよく語られるパーソナライゼーションへのニーズも健在です。自分のためにデザインされた体験を求めるニーズですが、現在はより進化したハイパー・パーソナライゼーションという概念が生まれてきています。通常のパーソナライゼーションは「過去のデータ」を元に「同じ嗜好を持つ人たち」を対象にしているのに対し、ハイパー・パーソナライゼーションは「リアルタイムのデータ」を元に「個人」を対象に、より個人にマッチしたサービスを提供するものです。
この具体例として、Spotifyが2023年に発表した「AI Playlist」が挙げられます。たとえば「出かけるので気分をアゲるプレイリストをお願い」とチャットにプロンプトを入力すると、それに合わせたオリジナルなプレイリストを制作してくれます。また“ちょっと違うな“と思ったら「もうちょっとチルな楽曲を加えて」などチャットを繰り返すことで、プレイリストの最適化が図れます。このように、固有のリクエストに応える形式を取ることで、「おすすめ」以外の選択肢をユーザーに提供する仕組みになっています(現在はベータ版が米国、カナダ、アイルランド、ニュージーランドのみで利用可能。日本での実用が期待されますね)。
他にもAmazonでは米国を皮切りに「Consult-A-Friend」機能を導入中。これはユーザーが商品の購入検討時に、何人かの友人に相談を送ることができ、そこで返答されて来たコメントは、まとめて閲覧できる機能です。これによりオンラインショッピングは、ソーシャルな体験へと進化。もちろん、より多くの情報に基づいた購買決定にも役立ちます。
データを活用したSpotify、ソーシャルなつながりを活用したAmazon。アプローチは異なるものの、パーソナライゼーションをより進化させる動きが、顧客体験評価が高い両社の新サービスに見てとれますね。
データ保護:Samsung – Privacy Dashboard
ここまで紹介してきたケーススタディーを見ていると、その多くが何かしらの形で「データ」を活用していることがわかります。一方でブランドが正しく「データ」を活用することは、ブランド評価における「衛生要因(そこに問題があると大きな不満要因になること)」であると考えられます。
実際に、シスコ社の調査によると、消費者の約半数(46%)が「自分のデータを保護できないと感じたことで、サービス利用をやめた経験がある」と答えています。
サムスンは2021年より「プライバシー・ダッシュボード」を導入し話題となりました。スマホアプリは、そのサービス提供のためにスマホのデータにアクセスしていることがありますが、それをユーザーに開示してくれる機能です。
これによりユーザーは、必要以上のデータにアクセスしているアプリ(たとえば、バックグラウンドでマイクがオンになっているなど)を素早く発見することが可能。不必要であれば即座にアクセス許可を取り消せます。また、アプリがクリップボード(スマホ上で一時的に保存されたデータ)にアクセスした際には、アラートを受け取るオプションもあります。
革新的なテクノロジーで注目されるサムスンですが、データ保護という部分もしっかりと対応をしていることで、顧客体験評価が非常に高いブランドとなっています。アルゴリズムの時代には、サービスを提供するブランド側に安心を求めるニーズも抑える必要がありそうです。
