逆上がりのプランニングは要注意
──ショート動画を前提にしたテレビCMを考える際、マーケターはどのような点に気を付けるべきでしょうか?
SNSのフィード上でテレビCMとショート動画に最適化したコンテンツを同時に流した際にショート動画のほうが視聴回数が多くなることがあります。そのときに生まれるのが「ショート動画でうまくいったものを、テレビCMにそのまま活用しよう」という「逆上がり」のプランニングです。これは注意が必要だと考えています。
なぜなら、先述のとおりテレビCMはあらゆるステークホルダーに向けたブランド担保の役割が増しているからです。一部の層だけに向けた言わば内輪ウケのショート動画のコンテンツをそのままテレビCMに流用することは、極論ですがブランドのイメージを損なう可能性もあります。
広告業界では、「統合プランニング」という言葉が広く用いられていますが、ショート動画活用においては、「手段」の集合になっている場合も見られます。そうではなく、マーケティングコミュニケーションの「目的」を統合し、ブランドの世界観を一貫して伝えることが重要なのです。
具体的なご説明としてQoo10の事例を紹介します。現在Qoo10では、テレビCMも企業発信のショート動画も一貫して「メガ割がいつからいつまで開催される」という情報のみを発信しています。
というのも、メガ割に合わせてインフルエンサーやクリエイターの方々が、「メガ割で買うべきもの」「買ってよかったもの」といったコンテンツを積極的に発信してくれる。UGCが自然と作られる環境を構築できているからです。これは、冒頭でもお話をしたインフォメーションとインテリジェンスのバランスがとてもよい状態です。
とはいえ、日本でのマーケティングを開始してから現在までの6年間で、時代とともに変遷してきました。UGCが自然に生まれる環境が整う以前は、SNSやYouTube、TikTokといったテレビ以外の音ありの媒体を積極的にQoo10の入り口にし、「メガ割」の名称を若年層に強く訴求していました。その後、テレビCMでもショート動画のクリエイティブ表現を「あえて」取り入れました。「SNSで見たことがあって、テレビCMもやっているサービス」として、若年層に安心感を提供することが狙いです。
これはショート動画起点の逆上がりCMではなく、まずはメインターゲットである若年層のユーザーにサービスを楽しんで欲しいという一貫した目的で展開したため、うまく機能したと分析しています。ユーザーファーストなコミュニケーションを続け、ショート動画のプラットフォームとともに成長した事例です。
