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企業の取り組みから考えるインクルーシブデザイン

ZOZOが「在庫の壁」を打ち崩し、多様なニーズに応えるインクルーシブウェア事業を成立できた理由とは?

 インクルーシブデザインを実現しようとしたとき、テクノロジーは大きな味方になる。ZOZOと服のお直しサービス「キヤスク」を運営するコワードローブが手を組んで展開しているインクルーシブウェアの受注生産サービス「キヤスク with ZOZO」も、テクノロジーと当事者の声を活かして展開されている。インクルーシブデザインスタジオ「CULUMU」を率いる川合俊輔氏が、同プロジェクトをリードするZOZOの長田富男氏にその詳細をたずねた。

在庫リスクを抱えず、幅広いニーズに応える仕組みで生産

川合:最初に、長田さんと「キヤスク with ZOZO」について教えてください。

長田:私はずっとアパレル企業で生産管理の仕事をおりまして、ZOZOには2023年の5月に中途入社しました。今は本職の生産管理の仕事と並行して、「キヤスク with ZOZO」のプロジェクトをリードしています。

 「キヤスク with ZOZO」は、ファッションブランドがZOZOTOWN上でインクルーシブウェアを受注販売できるサービスです。インクルーシブウェアとは、障がいの有無や体型の違い、性別などに関係なく、誰もが便利に使える「インクルーシブデザイン」の考え方を取り入れた服のことです。

 2024年8月にローンチし、まずは車椅子ユーザーの悩みに応える「チェアーパンツ」を開発しました。足に障がいがあっても着脱しやすくするファスナーが付いていたり、床ずれが発生しにくいよう、縫い目の位置を工夫したりしています。

 「キヤスク with ZOZO」の特徴は3つあります。1つ目は、服のお直しサービス「キヤスク」さんと協業していることです。「キヤスク」は、障がいや病気など様々な事情を持つ人が自分の好みで選んだ服を着られるよう、既製服をお直ししてくれるサービスです。これにより、参加するファッションブランドは、障がい当事者の声を企画・設計に反映できます。

 2つ目は、受注生産方式を採用していること。ファッションブランドは在庫リスクを抱えずにインクルーシブウェアを販売することができます。ここにはZOZOの生産支援プラットフォーム「Made by ZOZO」が活かされています。「Made by ZOZO」は、商品の企画・設計から調達、生産、物流、販売までのサプライチェーンをデジタルで管理することで、ZOZOTOWN上で商品を受注した後に、最低1着から生産できる仕組みです。

Made by ZOZOの概要
Made by ZOZOの概要

 3つ目は、最大69サイズのラインナップで販売が可能なことです。ZOZOTOWN上で提供してきた「マルチサイズ」(※)のサービスに加えて「キヤスク with ZOZO」独自の小さい13サイズ展開が可能になっており、あらかじめ複数のデザインを用意しておけば、受注に合わせてニーズに合ったサイズを提供できるようになっています。

川合:「Made by ZOZO」の仕組みを利用することを前提に事業を考えられたのですね。

※マルチサイズ:ZOZOTOWN上で身長・体重を選択するだけで、豊富なサイズ展開の中から体型にあったサイズのアイテムを購入できるサービス。縦と横で異なるサイズを組み合わせ、最大56サイズの中から選ぶことが可能。

ZOZOのテクノロジーが事業立ち上げのカギに

川合:事業を立ち上げたきっかけについて教えてください。

長田:個人的なことになりますが、私の娘が重症心身障がい児で、日常的に着る服に困っていました。同じような境遇の友達も同様の悩みを抱えており、中には自分でミシンを買ってお直ししている人もいました。そうしたことから、インクルーシブウェアにはニーズがあるはずだと感じていたのですが、事業化にあたっては「在庫の壁」という問題がありました。

株式会社ZOZO 生産プラットフォーム本部 DX推進部 生産管理ブロック 長田 富男氏
株式会社ZOZO 生産プラットフォーム本部 DX推進部 生産管理ブロック 長田 富男氏

 アパレル産業は、同じものを一度に大量に作るほど安く作れる、という構造になっています。そのため在庫リスクや廃棄リスクを抱えながらも、とにかく大量に作る、という商習慣がずっと続いてきました。

 一方、ファッションブランドが障がい当事者の多様性に寄り添おうとすると、圧倒的なデザインとサイズのバリエーションが必要になります。大量生産が基本となるアパレル産業の商習慣の中でバリエーションをそろえ、利益を出そうとしても、なかなかうまくいかないわけです。

 元々、私はそういう業界の商習慣に課題を感じていたので、「Made by ZOZO」の、必要な分だけを売る、販売してから作るという、革新的な仕組みに惹かれてZOZOに入社しました。そこで生産管理の仕事をしているうちに、「Made by ZOZO」やマルチサイズの仕組みを使えば、インクルーシブウェアを事業にできるのではないかと考えるようになりました。

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当事者の声をくみ取る体制をどのように整えた?

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この記事の著者

こまき あゆこ(コマキ アユコ)

ライター。AI開発を行う会社のbizdevとして働きながら、ライティング業・大学院で研究活動をしています。
連絡先: komakiayuko@gmail.com

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/05/19 09:41 https://markezine.jp/article/detail/48719

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