インターネット台頭から30年、今注目すべき動きとは?
──インターネットが台頭し、30年が経過しました。昨今の生活者におけるインターネットの使われ方の変化について教えてください。
榊原:企業のマーケティング活動において、インターネット動画広告の使われ方が変化してきていると感じます。従来、インターネット広告は「コンバージョン領域に強い」とされ、ファネルのボトム部分での特性に注目されることが多くありました。しかし動画広告メニューの充実やコネクテッドテレビによる映像の拡大や精細化などにより、ブランディングを含むトップファネルでの役割が大きくなっていると思うのです。
特に若年層は、SNS上の縦型動画の視聴を中心に、「ファネルを経由せず認知して即、購入に至る」ことも発生してきています。つまり従来のファネルとは全く異なる購買行動の兆しがある訳です。背景にはAIやアルゴリズムが介在しており、今後も注視していきたい動きです。
北原:購買行動モデルの代表であるAIDMAは、実は随分前から破綻しているのではとも言われています。このモデルが発表された1920年と比べ、媒体の種類も人の多様性も異なりますし、インターネットの発達によってそれが如実に表れています。
インターネット広告の強みは、データを取ってPDCAサイクルを回せるだけでなく、興味のある人に対して深く理解を促せるところにあります。しかし、そればかりだと想定する顧客が枯渇してきてしまいます。
大切になってくるのが、テレビをはじめとするマス広告や交通広告などです。これらが元々やっていることは「広くリーチを取り、関心のない人たちにどう振り向いていただくか」です。デジタル・リアルそれぞれのメディアの使い方を意識してカスタムし、リーチと深い理解の両輪を行き来させて、持続的なコミュニケーションを持ち続ける。この動きが広告費としても如実に見えてきています。
メディア活用は、成熟されつつある
──マス広告・インターネット広告を隔てる垣根が低くなってきているように思うのですが、いかがでしょうか。
北原:確かに、近年のインターネット広告偏重トレンドから揺り戻しがある印象です。企業はインターネット広告単体での活用の限界を強く感じているように思います。またマスコミ四媒体・プロモーションメディアも含めて、それぞれの特性や得意・不得意が明確化してきたのでしょう。
したがって企業は、各ブランドの目的に合わせ、細かく媒体を組み合わせするようになりました。こうなってくるとデジタル・リアルを、どれだけシームレスな状態でコミュニケーションを図れるかがより重要になってくるでしょう。つまり、企業の宣伝部やマーケターのメディア活用が成熟されてきているとも取れます。
──最後に「日本の広告費」をはじめ、マーケターがマクロデータを見る意義について教えてください。
北原:私は、旧来のマスメディアの方々に対して「昨年の結果はこうでした」と報告する機会が圧倒的に多いのですが、昨年、Web系のプラットフォーマーや広告会社の方々、インフラ系の方々に説明する機会がありました。それが想像以上に好評で、驚きました。
インターネット広告は種類も多いので、その中で完結してしまうこともあります。日々の忙しい業務の中では、目先のPDCAに目が向きがちになります。年に一度、各媒体の動きを見直すことで新たなシナジーを見つける手掛かりになるかもしれません。
榊原:広告費・企業動向・メディア行動・マーケティング理論を、つなげて総合的に捉える視点でデータを見て頂きたいです。特にメディア行動は多様性の時代と相まって、性年代やライフスタイルによって大きく傾向が異なり、全体平均がほとんど意味をなさなくなっています。やや逆説的な言い回しになりますが、広告費をはじめとした複数のマクロデータを横断的に、かつ世代といったミクロの視点をもって見晴らすことで、特に若年層の中にこそ内包される新たなマーケティングの兆しを捉えていくことが必要だと思います。
