2種類のデザインが中長期的にブランドにもたらす影響とは?

文字による説明が書かれた合理的デザインの方は、水色の折れ線の経過をたどる。つまり短期的な売上は伸びるが、ブランドに対する評価は変化せず、長期的な売上の伸びは起こらない。また、価格感受性が高まり、価格競争に陥りやすくなってしまう。それに対し、文字による説明がない情緒的なデザインの方は、ピンクのような経過をたどる。この場合、瞬間的な売り上げは伸びないものの、ブランドがより強く成長することで、長期的な売上は増加していく。また、価格感受性が減少するため、価格競争にも陥りにくくなる。
この法則を踏まえると、ブランドの時間軸の中では、チラシ的なデザインが有効な期間と、嗜好的なデザインが有効な期間があるということになる。宮城氏は、その境目をどのように見極めていくか、言い換えると、「売れる」と「良い」をコントロールすることが重要だと述べた。
「短期的に考えた場合は、チラシ的にやる方が正解だと割り切っている場合もあります。だからといって、中長期の時間軸を見据えず、情緒的なエリアになっても相変わらず合理的なデザインをしていたら、お客様に愛していただくことは難しいでしょう」(宮城氏)
また乙幡氏は、コントロールのコツとして、店頭に並べられるパッケージであるという観点も踏まえるべきとアドバイスした。
「確かに最初は商品の機能的な良さを伝えていかないと、どうしても商品の良さは伝わらず、商品自体も売れません。特に、店頭でのコミュニケーションがすべてになっているような場合、パッケージデザインは非常に重要なコミュニケーションエリアになります」(乙幡氏)
デザインの大原則は、一貫性から可変性へ
次の話題は、生活者と情緒的関係を結ぶ秘訣について。この話題を考えるうえで、宮城氏は、デザインが一貫性を重視していた時代から可変性を重視していく時代に変化したことに注目すべきと語った。それを象徴するできごとが、2020年代に入り、マクドナルドのパッケージデザインがグローバルで変更されたことだ。
「マクドナルドのパッケージは、皆さんも良くご存じで、すぐにイメージが浮かぶかと思います。デザイナーにとってはお手本のようなパッケージデザインですから、『こんなブランドを作りたいね』と誰もが思っていることでしょう。
そんなマクドナルドの新たなパッケージデザインを見たとき、僕は『時代が変わる』と思いました。なぜなら、それまで一貫性を前提としていたデザインの大原則が、可変性を前提としたものとして、僕の眼の前に現れたんです。
デザインだけにとどまらず、すべてのものが可変性を前提としたシステムになっていくんだという衝撃を、僕に与えることになりました」(宮城氏)
※変更されたマクドナルドのパッケージデザインおよびデザイン変更の変遷は、日本マクドナルドのニュースリリースで確認できる。
宮城氏らデザイン組織が携わるサントリーの「クラフトボス」はコーヒーのブランドとして知られていたが、今や紅茶やフルーツオレ、フルーツスカッシュなども展開している。これもブランドが一貫性重視から可変性重視へと変化している例と捉えることができる。
「お客様は、1日中コーヒーだけを飲んでいるわけではなく、『仕事中に何か飲む物が欲しい、飲みたい物は何か』というように捉えると、発想としてコーヒー以外の飲み物も浮かんでくることになります。
僕たちは、一貫してコーヒーを売っているのではなく、働く人の相棒として、『クラフトボス』をつくっているわけです」(宮城氏)
宮城氏によれば、可変性という概念を日々の仕事に反映していくには、セッションの冒頭に紹介した柔軟性の高い開発プロセスが、決定的に重要になるという。